【UU分析】トゥへルがチェルシーを変貌させた4つのポイント
2019-20のCLでパリ・サンジェルマンを準優勝に導いたにもかかわらずその4カ月後の2020年末に解任された47歳のドイツ人指揮官は、2021年1月26日から着任した新天地で見事、雪辱を果たした。空中分解寸前のチェルシーを欧州王者にまで上り詰めるチームに短期間で仕立て上げたトーマス・トゥヘルの手腕。[3-2-5]のチーム構造、攻撃時のメカニズム、守備ブロックの攻略法、プレッシングの原則、という新監督による4つの変更点に注目したイタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』の解説記事(2021年3月23日公開)を特別掲載。先日公開した、ドイツの戦術サイト『シュピールフェアラーゲルンク』によるマンチェスター・シティ分析シリーズと合わせて楽しんでほしい。
『フットボリスタ第85号』より掲載
去る2021年1月25日、前日のFAカップ4回戦ルートン(2部)戦で3-1の勝利を収めたにもかかわらず、チェルシーはフランク・ランパード監督の更迭を決めた。リーズを同じ3-1で下し、プレミアリーグで首位からわずか2ポイント差の3位に浮上してからまだ2カ月も経っていなかったが、その間にランパード率いるチームはリーグ戦8試合を戦って5敗を喫するという不振に陥っており、これが解任の決定的な要因になったことは明らかだった。こうしてプレミアリーグで9位にまで転落したチェルシーを立て直し、トップ4に導くという任務を委ねられた後任監督は、2019-20シーズンのCL決勝へ導いたパリ・サンジェルマンを解任(2020年12月29日)されて間もなかったトーマス・トゥへル。順位の回復はもちろんだが、それ以上に求められていたのは、ランパードの下で自信を失い、空中分解寸前だったチームに新たなアイデンティティを与え、そのパフォーマンスを改善することだった。
ロンドンに到着したトゥへルには、最初の試合であるリーグ第20節ウォルバーハンプトン戦に向けてチームを準備するための時間がわずか24時間しか残されていなかった。その後に収録されたリオ・ファーディナンドによるインタビューでトゥへルは、この短時間で戦術的に何らかの手を打つことは不可能だという認識の下、まずキャプテンのセサル・アスピリクエタをピッチに送り出すこと、そして中盤にセントラルMF(以下CMF)を2枚並べることを出発点とすることを、スタッフとともに決断したと語っている。0-0の引き分けで終わった初戦は順位表にはほとんど影響を及ぼさなかったものの、その新たな布陣による説得力のあるパフォーマンスは、トゥへルにチームを構築する確かな土台を提供することになった。
チーム構造の変更
Il cambio di struttura
ランパードが抱えていた大きな問題の一つは、[4-3-3]または[4-2-3-1]という彼の基本システムに新戦力をうまく組み込めず、それゆえ彼が目指す縦志向の強いスタイルを形にできない点にあった。当初のアイディアは、ティモ・ベルナーの縦のダイナミズムを引き出し、そして生かすため、その背後にカイ・ハべルツ、両サイドにハキム・ジエクとクリスティアン・プリシッチを配して、縦のロングボールを多用するというものだった。しかしベルナーの1トップ起用は望んだ成果をもたらしてはくれず、ランパードは彼を左サイドに移して(プリシッチが故障を抱えたという事情もあった)、CFにはタミー・エイブラハムかオリビエ・ジルーを置くようになる。一方、中盤の序列はかなり流動的だった。ジョルジーニョは守備的に戦うべき試合では信頼性に欠けると判断され、アンカーのポジションをエンゴロ・カンテに置き換えられることが少なくなかった。これはインサイドMFに推進力の高いメイソン・マウントとマテオ・コバチッチを併用する上で必要な措置でもあった。
しかし全体的に見れば、ランパードのチェルシーは特にボール循環という点ではあまりにフラットで、中央ルートの密度の低さゆえに縦の推進力が不足していた。同時に、外ルートからのビルドアップにおいても、ボールをサイドに追い込もうとする相手に対しては、敵最終ラインをスピードに乗って攻略するコンビネーションのスイッチを入れるところまで到達できず、残りの選手たちがクロスに備えてゴール前に攻め上がるタイミングと勇気を損なう結果に終わっていた。
それだけでなく、チェルシーは守備にも問題を抱えていた。プレッシングにおいて陣形をコンパクトに保つことができないという困難に、CB陣にラインをブレイクして飛び出す感覚が欠けていることも相まって、ライン間にパスを引き出そうとするタイプのチームにとってチェルシーは格好の餌食だった。CB陣は予防的マーキングや帰陣のタイミングに対する意識が低く、それがネガティブトランジション(攻→守の切り替え)における脆弱さを助長する原因にもなっていた。攻守いずれの局面においても、チェルシーは自らの戦い方に対する自信と確信を欠き、またそれゆえにプレーにアクティブに関与しようとする意識も薄いチームになっていた。
少なくとも現時点(本稿執筆の2021年3月23日時点)において、トゥへルはこれらの傾向の克服に成功したように見える。就任以来まだ1試合も落としていない(公式戦10勝4分)というだけでなく、トッテナム(0-1)、リバプール(0‒1)、エバートン(2-0)という強豪相手に勝利を収め、さらにCLでもアトレティコ・マドリーに2勝(0-1/2-0)してベスト8に駒を進めた。これらを可能にしたのは、ランパードが導入していたチーム構造の見直しが機能したからだ。これまで率いてきたチームでもそうだったように、トゥへルはビルドアップの局面に明確かつ流動性の高い[3-2-5]または[3-2-1-4]という構造を導入し、プレーヤーの特徴と個性に合わせてそれを微調整した。
まずアスピリクエタは、ビルドアップに積極的に関与し必要ならば敵陣深くまで進出する右CBというタスクによって、チームにおける根源的な重要性を取り戻した。右サイドの幅を確保するタスクはリース・ジェイムズあるいはカラム・ハドソン・オドイが担うことになる。一方、左サイドの幅を担う仕事は当初、ベン・チルウェルよりもむしろマルコス・アロンソに委ねられることが多くなった。CBの中央にはチアゴ・シウバ、左にはアントニオ・リュディガーが主に起用され、クル・ズマ、アンドレアス・クリステンセンは控えに回ることが多い。
対戦相手が前線からの超攻撃的なハイプレスを仕掛けてくる場合(トゥへルはファーディナンドとのインタビューでバーンリー戦の後半を例に挙げている)を除けば、チェルシーの優先順位は、両サイドのプレーヤーを中盤ラインよりも高い位置に進出させ、3バックと2CMFによってビルドアップを行うことにある。GKエドゥアール・メンディ(ケパ・アリサバラガの起用は稀)の前に位置するこの5人の段差がついた配置によって、チェルシーのボール循環は一気にクリーンかつスムーズになった。あたかも、チェルシー攻撃陣が敵陣で効果的に戦うためには、単により堅固な土台が必要なだけだったと言わんばかりに。
攻撃陣の組み合わせと2ライン間の連動性
L’assortimento offensivo e le dinamiche sulla trequarti……
Profile
ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。