スケールの大きなプレーでJリーグを席巻していた三笘薫。しかし、川崎フロンターレで見せていた個の突破をチームでの崩しに繋げていく彼の良さは、東京五輪の大舞台では影を潜めた。最後のメキシコ戦では能力の一端を見せてくれただけに、普段から彼のプレーを見ていた人たちは歯がゆい思いを抱いていたはずだ。川崎フロンターレのマッチレビューを続けるせこ氏に、「日本のジョーカー」に成り得る才能の今大会を総括してもらおう。
2020年、2021年の川崎の躍進を大きく支えた三笘薫の東京オリンピック招集は多くのJリーグサポーター、そして川崎サポーターにとって大きな期待を持って迎えられるものだった。しかし、結果として本大会の6試合で得られた出場時間は70分弱。最終戦のメキシコ戦ではゴールで意地を見せたものの、期待されたほどの大きなインパクトを残すことはできなかった。その理由について日頃川崎でのプレーを見ている視点を交えて考えてみたい。
ACL集中開催の疲労
ありきたりだが、考えられる最も大きな理由はコンディションだろう。プロ1年目だった2020年は1年間での出場時間が1961分だったのに対して、2021年はシーズンの半分を少し超えた時点ですでに1571分。あと公式戦6試合ほどを消化すれば昨シーズンに並ぶ時間数でプレーするペースである。
所属チームの川崎は今季ACLの集中開催の影響を受けて、特に序盤戦は日程が非常に過密になった。ウズベキスタンでの開催となったACLでの中2日×6試合は純粋な試合の疲労だけでなく、慣れない環境で厳しい制限を受けての生活でのストレスで我われファンの想像を大きく超える負荷を受けたはずだ。
加えて、チームにおける重要度も大きくなった。プレータイムを争う長谷川竜也は昨シーズンの負傷以降、なかなか調子が上がらずに苦しんでいる。その間に三笘は交代選手として流れを変えるゲームチェンジャーから、チームの中核を担う存在に変化した。2020年後半からは三笘、家長、レアンドロ・ダミアンの前線3枚を軸としたやり方に徐々にシフト。プレータイムも内容面での負荷も大きくなっていった。
そういった中でACLから落ち着く間もなく合流した今大会は三笘にとって万全のコンディションでなかったのは明らかだ。別メニュー調整での合流に始まり、満足に親善試合のプレータイムを得ることもできない中で本大会に臨むことになった。コンディション調整もプロの仕事と言われればそれまでだが、自分が今大会の三笘が大きな活躍ができなかった要因として真っ先に挙げるとしたらこれしかない。
ニュージーランド戦では得意のゲームチェンジャーとして投入されたにもかかわらず、対面した選手との1対1を制することができなかった。その姿は舞台が異なるとはいえ普段見ている三笘とは大きく違うものだった。だからこそ、川崎ファンの自分にとっても続くスペイン戦のベンチ外という判断は残念ではあるが理解できるものだったと言える。
「中」に入りたがる悪癖
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Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。