「ハーフスペース」をはじめとした戦術用語の詳細な解説やチーム戦術の分析を行い、寄稿者の中からレネ・マリッチらプロのコーチに転身する人材も輩出しているドイツの戦術分析サイト『シュピールフェアラーゲルンク』。サッカー関係者からも一目置かれる存在の同サイトがこの春、2020-21に破竹の勢いで勝利を重ねたグアルディオラの最新戦術について徹底分析した記事を公開した。分析には、ハイデュク・スプリトのセカンドチームでコーチを務めたマルティン・ラッフェルトら複数のライターが参加。さらに、レネ・マリッチもフィードバックやアドバイスを行っている。今回は 『シュピールフェアラーゲルンク』 の許可を得て、珠玉の分析記事を全編翻訳し公開する。
第3回では、2020-21のマンチェスター・シティの[3-2-2-3]の特徴の1つ、セントラルMFの1枚がサイドを起点とする動きについて、それがもたらす効果とメカニズムを掘り下げていく。
最新の解決策が、最後の可能性になるかもしれない
グアルディオラのDF3枚によるビルドアップは、ウイングの選手とコンビネーションを組むことで、さらに中盤の1枚を相手守備ブロックの中にポジションを取らせることも可能にする。この中盤の選手は、サイドに流れることもできる。それによって相手のプレッシャーを無効にしたり、逆に意図的に相手のプレッシングを誘発させたりするのだ。
その際には、ペップが誰を起用できるかも大きな意味を持つ。エデルソンやジョアン・カンセロは唯一無二のタイプの選手だ。仮に、この2人が個のポテンシャルという点でケビン・デ・ブルイネほどのものではないとしても。その一方で、CLの際どい試合で勝利するためにはラヒーム・スターリングの能力は最も大きな価値を持っているかもしれない。あるいは、ルベン・ディアスとジョン・ストーンズのコンビネーションはボールを動かす上でおそらく最も重要な役割を果たしている。
とはいえ、対戦相手の特定の選手あるいは特定のポジションの選手が、マンチェスター・シティのシステム、そして個人や集団のクオリティに対抗するための守備的な役割を急に失ってしまうわけではない。そうではなく、根本的な問題が生じているように見える。古典的な守備システムはすでに古びており、使い物にならないように見える。グアルディオラの最新のアップデートは、システム内のバグから生じるクラッシュを防ぐだけではないのだ。
2020-21の序盤は、それが最新のパッチのように理解することもできた。このパッチでは、相手DF陣からもたらされるすべての問題を、同じ基本配置のまま解決できる可能性を生み出した。ただ、実行の手順だけは合っていなければならない。その課題は十分に難しいものだが、現実に即しているようにも見えた。
このやり方の場合、敗北はゆっくりと対戦相手に近づいてくる。着実に対戦相手に近づいてきており、試合終了までに間に合うようにやってくる。以前のシステムに比べて、グアルディオラの[3-2-2-3]は対戦相手の大きな変更に対して精密かつ小さな調整で対応できるようになった。これにより、試合の優位性を維持しつつ、対戦相手にさらなる大きな変更を強いるのだ。哲学者ではなく、監督としてのグアルディオラのクオリティは、ディティールに表れる。例を挙げよう。……
Profile
シュピールフェアラーゲルンク
2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。