2000年代、黄金期を築いたバルセロナの“例外的存在”エトーとマルケス
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ライカールトからグアルディオラ、ロナウジーニョからメッシへ。指揮官とエースアタッカーのサイクルに成功し、それぞれの政権下で欧州の頂点に立った2000年代のバルセロナ。カンテラーノのプジョル、シャビ、メッシ、イニエスタ、ビクトル・バルデスらがチームの骨格を担う中にあって、カンテラーノではないものの2つの栄光を経験した選手の中からサミュエル・エトーとラファエル・マルケスの2人にスポットライトを当てる。
非強豪国のスター
バルセロナとレアル・マドリーには、その時代を代表するスタープレーヤーが在籍してきた。バルセロナでは、1950年代にハンガリーとチェコスロバキアの国籍を持つラディスラオ・クバラが最初の外国籍スーパースターとして活躍。70年代にはオランダ人のヨハン・クライフが「救世主」として久々のリーグ優勝をもたらし、80年代にはアルゼンチンからディエゴ・マラドーナがやって来た。その後も1シーズンのみだがブラジル人のロナウドが鮮烈な印象を残し、リバウドもエースとして君臨。多くのオランダ人選手もいた。
バルサの歴史を彩るスターのほとんどは、フットボールネーションと呼ばれる強豪国の出身である。50年代はハンガリーの全盛期、ブラジル人は常にプレーしていて、アヤックスとの繋がりからオランダ人も多い。ベルント・シュスター(ドイツ)、ティエリ・アンリ(フランス)、ルイス・スアレス(ウルグアイ)、もちろん自国のスペイン人もバロンドールを受賞したルイス・スアレス、ジョセップ・グアルディオラ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタなど多くのスターがプレーしてきた。いないのはイタリア人ぐらいだ。
そんな中、強豪国出身ではないが大きな足跡を残したのがサミュエル・エトーとラファエル・マルケスである。
カメルーン人のエトーは2004~09年に在籍し、マルケスは03~10年。2人の在籍期間はほぼ重なっている。それまでもアラン・シモンセン(デンマーク)、ヨハン・クランクル(オーストリア)などがプレーしているが、エトーとマルケスは例外的な存在と言える。
抜群のストップ&ダッシュ
間近で見ると、ものすごく足が長い。そしてとても顔が小さい。バルセロナでフランク・ライカールト監督のインタビューをした時、写真撮影のために椅子の高さを調節した。ライカールトに続いてエトーの撮影があったので、椅子を少し高くした。ライカールトの方が少し背が高かったからだ。ところが、いざエトーが椅子に座ってみたら全然高さが合わない。思った以上に、いや、けた違いに座高が低かったのだ。
エトーの長い足は混戦を抜け出す時や、瞬間的なトゥキックのシュートなどに活用されていた。名コンビだったロナウジーニョのようなトリッキーな技は使わないのにプレーは常に意外性に富んでいて、それは主に身体能力や独特の体型からきていたと思う。
あれほどピタッと止まれる選手はいない。まるでトカゲみたいだった。止まってからの一歩が速く、リーチがあってボールも大きく動く。一瞬でDFを置き去りにできた。左からロナウジーニョがカットイン、中央のエトーにボールを当ててコンビネーションへ持っていくのは当時のバルサの主要攻撃ルートだった。この2人が絡むと、何がどうなっているのかわからないうちに突破してしまう。意外性の二乗だった。
エトーはバルサでスーパースターになったが、彼にとって最初のクラブはライバルのレアル・マドリーだ。カメルーンのカジ・スポーツアカデミーから16歳でレアルの育成クラブであるカスティージャへ。その後、レガネス、エスパニョール、マジョルカと貸し出される。結局、エトーはレアルでほとんどプレーしないままバルサへ移籍している。ビッグクラブと契約したはいいが、貸し出しを重ねてついに所属のビッグクラブに戻れないままというケースは珍しくないが、最大のライバルであるバルサに渡してしまったのはレアルにとって痛恨の失策だろう。
ライカールト監督の下、「ドリームチーム」以来のCL優勝など輝かしい時代を築く原動力となったエトーだったが、2008年にグアルディオラが監督に就任したときには放出リストに載せられていた。クラブはメッシを中心とした新たなサイクルを作ろうとしていたからだ。
しかし、ロナウジーニョは去ったがエトーは残った。第8節のアルメリア戦では23分間で3ゴールを叩き込む活躍でエースストライカーが誰かを示す。エトーには、ここという時に真価を発揮する勝負強さがあった。16歳でカメルーンからスペインに渡り、他クラブへの貸し出しが続いたエトーは常に外様。得点で自らの価値を証明し続けなければならなかった。独力で周囲を黙らせてきたエトーの勝負強さは筋金入りだ。
この2008-09シーズンは自己最多の30ゴールをゲット、CL決勝のマンチェスター・ユナイテッド戦ではトゥキックで先制点を決めている。メッシの偽9番を使ったこの試合で、エトーは右ウイングでプレーしていた。
翌シーズン、ズラタン・イブラヒモビッチとの交換トレードの形でインテルへ。バルサはエトオとの交換プラス金銭で移籍を成立させていて、イブラヒモビッチとの比較がメディアで盛んになる中、「私はエトーだ。他の誰とも比較されたくない」とプライドの高さを見せている。ジョゼ・モウリーニョ監督の下、インテルは国内リーグ、国内カップ、CLの3冠を達成。エトーはバルサ時代に続いて2年連続の3冠だった。
CL準決勝でバルサと対戦した時、エトーは戦略的ウイングとしてプレーした。バルサのサイド攻撃を防ぐとともに攻撃で脅威を与え、第2レグでチアゴ・モッタが退場してからはSBとなって獅子奮迅の活躍。攻守万能ぶりを示し、バルサにあらためて自らの価値を見せつけた。
CBとクワトロ
エトーより1シーズン早くバルサに加入したマルケスはメキシコの英雄だ。ワールドカップ5大会連続出場、23歳からキャプテンを務めていた。バルサ在籍時に12のトロフィーを獲得している。
もともとは読みの鋭さ、カバーリング能力、空中戦の強さ、フィード能力を兼ね備えた万能のCBだった。ところが、2004-05シーズンにチアゴ・モッタ、エジミウソンが相次いで負傷離脱したことから中盤の底でプレーするようになる。バルサでは組み立ての要になる重要なポジションである。2008年にグアルディオラ監督が就任すると、本職のCBとしてカルレス・プジョルとコンビを組んで3冠を達成した。
バルサで「クワトロ」と呼ばれるアンカーポジションは戦術上最重要とされている。ボール保持前提の戦術でビルドアップの中心になるからだ。「4番」なのはオランダ由来だから。オランダのポジション番号は後方右側から機械的に振っていく。[4-3-3]のDF右から2~5番、そうするとアンカーは6番なのだが、バルサはクライフ監督が[3-4-3]を採用したためCBの4番が中盤へ上がって「クワトロ」になったわけだ。ちなみにトップ下のホセ・マリア・バケーロの背番号が6番だったのは、ポジションが連動して1つ上がっているから。日本代表の監督も務めたオランダ人のハンス・オフトが、グアルディオラを「CB」と呼んでいたのはこうした経緯を端的に表していた。
グアルディオラが定着する前は、現監督のロナルド・クーマンが「クワトロ」だった。CBがこのポジションに上がるのは道理な感じもするが、CBとピボーテでは求められる資質が実はかなり違う。クーマンがどちらもこなせたのはむしろ例外で、グアルディオラにCBが無理なように2つのポジションに本来互換性はない。
マルケスが両方できたのも例外と言っていい。もっとも、バルサのCBにはビルドアップ能力が要求されるのでエジミウソンやハビエル・マスチェラーノなどピボーテとCBを兼任できる選手はけっこう多いのだが、結局はどちらかに落ち着く。両方を高いレベルでこなせたマルケスはむしろ特別だった。
若くしてメキシコ代表の主将に抜擢されたカリスマ的なリーダー。勝利への執念、強烈な意志とプライドの高さはエトーと共通している。ライカールトからグアルディオラへ監督が代わり、メンバー再編が行われても残った2人。非強豪国の2人でもある。力の源泉はそのメンタルの強さだったに違いない。
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まるでゴム鞠のようなしなやかな肉体から繰り出す爆発的なランニングで相手を置き去りにするゴールハンターのサミュエル・エトーと、的確なパスワークと理知的なプレーで広報から攻守にチームを支えたラファエル・マルケス。異なる指揮官の下で2度のCL制覇を成し遂げた2000年代のバルセロナに必要不可欠なエッセンスをもたらした2人のレジェンドが、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!
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配信機種:iOS / Android
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メーカー:セガゲームス
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。