昨シーズンのJFLで鮮やかに優勝をさらい、今年の天皇杯では2つのJ2クラブを撃破して4回戦進出。ヴェルスパ大分がその存在感を強めている。2003年。「HOYO FC」として立ち上がったクラブは、トリニータという絶対的なJクラブが根を張る大分の地で、どのように成長を遂げ、どういう未来予想図を描いているのか。監督、GM、キャプテン。複数の関係者の証言を集めつつ、彼らの過去、現在、そしてこれからを、大分のサッカー界をつぶさに見つめてきたひぐらしひなつ氏が、丁寧に記す。
クラモフスキー体制下の山形に唯一土を付けたチーム
今年も数々のジャイアント・キリングがサッカーファンの心をかき乱しながら、天皇杯は現在、3試合を残して3回戦までを終えた。
ラウンド16へと進出したのは、そうそうたるJクラブの面々だ。その中で唯一、昨季JFL優勝してアマチュアシード権を勝ち取ったヴェルスパ大分だけが、異彩を放っている。現在27名の登録選手のうち、プロ契約を結んでいるのは10名のみという陣容で、1回戦でレノファ山口FC、2回戦でモンテディオ山形と、いずれもJ2クラブに勝利する快挙を遂げてきたのだが、J1・FC東京を下した千葉県代表・順天堂大や、J2・ヴァンフォーレ甲府に劇的な逆転勝利を遂げた福井ユナイテッドFCに、話題をさらわれる格好になっていた。
一気に注目度が高まったのは3回戦だ。とは言っても、注目されていたのは対戦相手の京都府代表・おこしやす京都ACの方。2回戦でJ1・サンフレッチェ広島に5-1と圧勝した地域リーグのチームが、今度は昨季JFL王者を蹴落として駒を進めることが期待された。だが、そんな空気は読むわけにはいかない。今度は“される側”へと回ったジャイキリを許さず、ヴェルスパは3-1でおこしやす京都ACを抑え込むと、順当に勝ち上がった。
ここでようやくヴェルスパにスポットが当たる。毎年のように上位進出する静岡県代表・Honda FCも3回戦でJ2・ジュビロ磐田に敗れ、アマチュアチームで生き残ったのはヴェルスパのみとなり、やにわにその存在感が際立つようになった。
刮目してもらいたいのはその戦い方だ。上位カテゴリーの相手と対戦するチームは往々にして主導権掌握を諦め、割り切った戦法でジャイキリを狙いに行くものだが、ヴェルスパはJ2クラブと戦っても、逆に下位カテゴリーの地域リーグのチームと対峙しても、日常的にJFLで披露しているスタイルを貫いている。1回戦のレノファ戦は狙いどおりに先制したものの追いつかれ、PK戦まで粘って勝利。2回戦は相手にボールを握られる展開から逆転し、ピーター・クラモフスキー監督就任後無敗のモンテディオを下した、現時点で唯一のチームとなった。
「選手も普段やっている戦法で戦いたかったし、僕も自分がやってきたものがどれだけ通用するのかを確かめたかった。その思惑が一致して、相手をリスペクトしすぎることなく真っ向勝負に挑んだんだよね」
と、今季からヴェルスパを率いる山橋貴史監督は振り返る。モンテディオ戦では立ち上がりから相手に剥がされて早々に失点したが、自陣に引いてしまった選手たちを鼓舞して奮い立たせ、持ち前のアグレッシブなプレッシングを回復させると見事に逆転成功へと導いた。
目指すはJFL連覇一択
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg