欧州サッカーファンのオフシーズンの寂しさを埋めて余りある熱狂を呼んだのが1年遅れでの開催となったEURO2020。1カ月に及ぶ激闘はイングランドとのPK戦を制したイタリアの優勝で幕を閉じた。全51試合をすべて観たというせこ氏に今大会のトレンドを聞いた。
筆者が軽い気持ちで始めた「EURO全試合見るプロジェクト」は連日の4時起きという自身の欧州サッカーライフ史上最も過酷といっていい試みだったが、全部見たからこそ見えたものもある。というわけで、51試合を全部見た自分が考えたEURO2020で見られたピッチにおける4つのトレンドについて話してみたい。
①アタランタ勢が象徴。「個人単位」でコンセプト移植
EUROはナショナルチームの舞台としては最高峰と言えるだろう。だが、「代表シーンでは戦術的には新たな発見がない」と言われるようになって久しい。確かにこの大会でもアイディアの部分で思わず膝を打つような仕組みを見せたチームは見当たらなかった。
理由としては代表ウィークの活動が段々と削られていることが大きい。日常的なチームの原則を落とし込める時間はクラブと比べれば桁違い。加えて、今大会においてはコロナウイルスの存在も大きな障害である。2020年以降、代表活動をまともにできなかったチームがほとんどと言っていいだろう。
そんな中、一時期流行したのがロールモデルとなるクラブチームをコピーして、ナショナルチームに移植するやり方だった。スペイン代表はバルセロナ、イタリア代表はユベントス、ドイツ代表はバイエルンといったように各国を代表するメガクラブを見本にして、そのチームの選手を軸にチームを組むやり方で成功を収めてきた。
しかし、現状ではそういったメガクラブすら多国籍化しており、そのままのコピーは難しくなった。そういう中で迎えたEURO2020で流行したのが選手単位で切り分けたタスクをチームに移植する流れである。確固たるスタイルをもとにタスク割りをしているクラブの選手たちを招集し、その選手にクラブでやっている役割を担ってもらうというやり方だ。
この例として最も印象的だったのはスペイン対イタリアのカード。ルイス・エンリケがモラタに代えてダニ・オルモをCFとして先発させた試合である。それまではバルセロナのようなゆったりとしたパス回しをしていたスペインだったがRBライプツィヒ所属のダニ・オルモが先発したことで一変。縦に速いレッドブル・グループの成分が強いチームに早変わりしたのである。選手単位の入れ替えがチームのカラーをガラッと変えた一例だろう。
クラブ別にみるとグループステージで存在感があったのはアタランタやリーズの選手たち。前者はマリノフスキ、ゴセンス、フロイラー、メーレ。後者はアリオスキ、フィリップス、クリヒ。チームにおいて主に汗かき役として存在感を放つ選手が多いのが特徴である。
こういったチームに共通しているのはメカニズムを維持するために運動量が豊富であること、そして魅力的なスタイルでありながらテンポを崩す危険性も大きいことである。先に挙げたクラブの選手たちは運動量を求められるシステムでプレーできる体力を有していることに加えて、メカニズムが維持できなくなった時の対応にも慣れている。いわば“トラブルシューティング”が得意な部分も重用される要素ではないだろうか。
そして決勝トーナメントで目立ったのはアトレティコ勢。現代のトラブルシューティングの代表格のようなチームである。決勝でトリッピアーを使ったイングランドや、ルイス・エンリケが勝負に出たイタリア戦で存在感を放ったコケなど、完成度の高いイタリアに立ち向かうための武器として“アトレティコの兵隊たち”が使われていたのが印象的である。
来年のW杯でも「困った時にはこのチームの選手を使っておけば問題ない!」というクラブは現れるだろうか。……
Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。