ナーゲルスマンが解説する「フォーメーション」と「システム」の違い
始動して1週間が経つバイエルン。注目を集める若手監督ユリアン・ナーゲルスマンにもインタビューの依頼が押し寄せているようだ。前回に続き、今回は『シュポルトビルト』が7月14日付のインタビューを掲載している。
前回はトレーニングの解説を行っていたが、今回はシステムやフィーメーションに関するナーゲルスマン自身の考え方について話している。稀代の戦術家と呼ばれる新監督の思考の一端に触れる。
システムとフォーメーションの違い
「フォーメーション」や「システム」という言葉はよく混同されがちだが、2つは別々のものだ。ナーゲルスマンは端的に説明する。基本配置(フォーメーション)とは「選手の立ち位置の1つを示すに過ぎない。つまり、選手がどのように配置されているかだ。例えば、EURO2020のドイツ代表の[3-4-3]のように」。
その一方でシステムがある。システムとは「基本配置に命を吹き込むものだ。(ピッチ上の各選手のチームとして連動するための)動きのプロセス・手順を組み込むことによってね」。
そうして基本配置を選択する際に、ナーゲルスマンは次のことを念頭に置いている。
「基本配置の選択の基準はシンプルだ。それは『自分たちのサッカーに関するアイディアを最大限にピッチ上で表現するためには、どのように選手たちを配置すればいいだろう?』と考えること。『どうやって対戦相手に合わせようか?』ではないんだ。自分たちが最大限の優位性を獲得できるように、自分たちの幾何学的なアイディアをピッチ上に反映させるのさ。個人的には、それができることは強みだと思っている」
ここで留意しなければならないのは、“自分たちのサッカー”を実現する際には対戦相手がいることも考慮に入れていることだ。ナーゲルスマンが「最大限の優位性を獲得する」と言うように、自分たちのポテンシャルを最大限に発揮することが試合での優位性に繋がるよう配置を考えなければならない。
基本配置の変更は「選手交代をする必要もなく、軸となる先発の11人を頻繁に入れ替える必要もなく行える必要がある。また、できるだけ選手が居心地の悪いポジションでプレーしないよう気をつけなければならない」と話すように、自分たちのコンセプトが基本配置に左右されないことを強調する。
ドイツ代表が選んだ[3-4-2-1]の難しさ
記者の質問に応じてドイツ代表の印象を述べた時、システムと基本配置に関する捉え方は具体的に示された。
「EURO2020でのドイツ代表は、各選手の動きの一連のプロセス(システム)が、おそらく常にうまく機能していたわけではないだろう。でも、それは基本配置とは何の関係もない。(コンセプトを実現するための)一連の動きは、3バックだろうと4バックだろうと同じように機能しなければならない」
とりわけ「個人の好みの問題で」と前置きしながら、ドイツ代表が敷いた[3-4-2-1]の守備組織に違和感を抱いていたようだ。
「ドイツ代表の基本配置の場合、あの構造の守備組織を敷くのはあまり好きではない。ボランチ2枚の動きのプロセスが複雑で難しいものになってしまうからだ。彼らの後方のDFラインの動きも簡単ではない。これは監督としての考えの1つであって、100%の正解はないけれどね」
同時に、基本配置が勝敗を決定するわけではないことを強調する。その一例がイングランド戦だ。
「最終的に対戦相手のほうがわずかに良かっただけだ。そして、彼らは運も味方した。ドイツ代表は試合を左右する決定的なチャンスを逃してしまった。それはもう仕方がない。基本配置のせいでドイツ代表が負けたとは思わない」
「基本配置について討論したがるのは典型的なドイツの現象だ。でも、それは最終的な勝敗には関係ない」
バイエルンの基本配置は変わらない
では、自身が率いるバイエルンではどうだろうか?
「基本的には、これまでバイエルンで機能していたことの多くはそのまま取り入れるつもりだ。この2年の間、ハンジ・フリックが実践していた基本配置もね。ここから2つ、3つほどの基本配置のバリエーションを作ることができるだろう」
「試合中に調整しなければならない時は、基本配置から少しポジション(立ち位置)を変えるだけである程度は対応できる。肝心なことは、戦術的な柔軟性を生かして、自分たちが引き続き最高レベルのバイエルンのサッカーをピッチ上で表現しようとすることなんだ。いつも極端なまでに対戦相手に合わせすぎないようにしながらね」
ここにナーゲルスマンのバランス感覚を見て取ることができる。起用できる選手、チーム内のヒエラルキー、自分たちのコンセプト、対戦相手、状況(日程、ピッチ環境など)のさまざまな要素を考慮に入れながら、その時の自分たちにとって最善な方法を選び取るのだ。ナーゲルスマンの特徴は、魅力的なコンセプトを実践するために現有戦力を最大限に活用するプラグマティズムにある。
明確なゲームモデルをKPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)として設定し、分析を通じて継続的にチームを成長させていくナーゲルスマンのチーム作りは、今季のブンデスリーガの見どころの1つになるはずだ。その一端は7月17日のケルン戦から始まるフレンドリーマッチの連戦の中でも垣間見られるはずだ。
Photos: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。