6月28日のEURO16強、フランス撃破の中心にいた背番号10の存在はあまりにも頼もしかった。主将としてスイスを牽引し、スター・オブ・ザ・マッチにも選出されたジャカだ。しかしそんな28歳のMFは今夏、5年間プレーしたアーセナルからの移籍が取り沙汰されている。眩しいくらいのリーダーシップ、本来の姿をEUROの舞台で見せてくれたジャカに対し、彼に批判の矛先を向けることもあったアーセナルのファンは何を思うのか。長年アーセナルを追い、今大会を通してジャカ愛が止まらなくなったというキムラヤスコさんに胸の内を綴ってもらった。
EURO2020で記憶に残る活躍を見せたチームの一つが、初のメジャー大会ベスト8進出を果たしたスイス代表だ。なかでも、ノックアウトラウンドの初戦、優勝候補と噂されたフランスを相手に、1-3から土壇場で追いつき、PK戦を制して勝ち上がったドラマティックな試合は、見ていた多くの人に強烈な印象を残したことだろう。
延長戦に入る前、スイス代表は、ピッチ上の11人だけでなく、ベンチメンバーに監督、スタッフ、とにかくありとあるゆる関係者を巻き込んで大きな円陣を組んだ。その中心には、1人の金髪の男が大きな声を出し、全員を鼓舞する姿があった。それがスイス代表キャプテン、グラニト・ジャカだ。
天性のリーダーシップの持ち主
ジャカを直接知る人から出てくる言葉からは、彼の優れたリーダーシップと、真面目で責任感の強い人柄がうかがえる。
所属クラブであるアーセナルのミケル・アルテタ監督は、ジャカのことを「生まれながらのリーダー。いつも1000%コミットし、それは自分のためだけでなく、仲間を助けるためでもある」と表現している。チームメイトから「偉大なリーダー」と信頼され、新加入選手からは「世話になっている」と感謝されるのも彼。ウナイ・エメリ監督時代にジャカがキャプテンになったのは、選手間の投票で決めた結果だというのもよく知られた話だ。さらには「最も熱心にトレーニングに取り組む人」として常に名前が上がり、「本来のポジションではない役割を打診されても『できると思う、やってみる』と答える」という証言もある。
プレーでは、中盤の低い位置から攻撃に繋げる強く正確なパスが持ち味だ。そして何といっても、ペナルティエリア外から狙う強烈な左足のミドルシュート。彼がゴール正面でボールを持った場面で、アーセナルファンは何度“Shooooooot!”と叫んだだろうか。
アーセナルファンとの葛藤
だが一方で、重要な局面で不用意なミスやファウルが目立つのも事実で、そのことでジャカは批判にさらされてもきた。それが大きな問題に発展したのが、2019年10月、エミレーツ・スタジアムで行われたアーセナル対クリスタルパレスの試合中の出来事だ。……
Profile
キムラ ヤスコ
観光、人材育成、アーセナルを主な守備範囲として企画・執筆活動を行っているライター・エディター。各国の文化や社会問題の視点からヨーロッパサッカーを眺める、自称「国マニア」的文化系フットボールファン。