ベルギー代表DFトーマス・フェルマーレンが、EURO2020の決勝トーナメント1回戦ポルトガル戦にフル出場。クリスティアーノ・ロナウドを始めとするポルトガルの攻撃陣を完封する活躍を披露し、大きな注目を浴びている。
ロナウド相手に実力を証明
6月27日に行われたポルトガル戦前、ベルギー国内の各メディアでは、3バックの中央に起用される選手が誰になるのか取り沙汰されていた。本来はヤソン・デナイエル(リヨン)が起用されることが多いが、今大会では第1戦目のロシア戦でDFデドリック・ボヤタ(ヘルタ・ベルリン)が出場。第2戦目のデンマーク戦にはデナイエルが起用されたが、開始早々のパスミスから大会唯一の失点を招いた。第3戦目のフィンランド戦もデナイエルが務めたが、大きな批判を浴びていた。
ポルトガル戦では、デナイエルでもボヤタでもなく、フェルマーレンが抜擢された。代表では3バックの左を務めることが多く、中央でのプレーはほとんど経験していないフェルマーレンだったが、本大会5得点を決めているロナウドを封じ込める高パフォーマンスを見せ、1-0での勝利に大きく貢献した。
ベルギー人にとっては馴染みが薄い極東のJリーグでプレーするフェルマーレンのパフォーマンスには、メディアも大きな驚きをもって報じている。ビッグクラブでプレーする他の選手とは異なり、フェルマーレンの普段のプレーを見ることがないベルギーメディアにとっては、ここ近年では招集に懐疑的な論調も多かったが、フェルマーレンはロナウド相手に自らの実力を証明した。
大会前は懐疑的な声も
半数近くの代表メンバーが30代に差し掛かっており、高齢化が進むベルギー。しかし、決して若手選手が育っていないわけでない。
今大会でメンバー入りしているFWジェレミー・ドク(レンヌ)をはじめ、MFヤリ・フェルスハーレン、MFアルベール・サンビ・ロコンガ(ともにアンデルレヒト)、FWシャルル・デ・ケテラーレ(クルブ・ブルッヘ)、DFアレクシス・サーレマーケルス(ミラン)など、数多くの若手選手が代表招集を受けている。
特に高齢化が顕著なCBも決して若手が育っていないわけではなく、DFセバスティアン・ボルナウ(ケルン)、DFジーニョ・ファンフースデン(スタンダール・リエージュ)らはすでに代表デビューを飾っている。ともに負傷明け直後であることが影響し、今回の代表招集は見送られたが、代表監督のロベルト・マルティネスからは高く評価されている。ドイツメディア『transfermarkt』での評価額はいずれも1200万ユーロ(約16億円)で、欧州各国の強豪も興味を示している。
ボルナウ、ファンフースデンのみならず、今年に入ってからは、ベルギーリーグでブレイク中の20歳のDFアルトゥール・テアテの代表待望論も浮上した。2020-21シーズンに大躍進したオーステンデの中心選手で、実質プロデビューのシーズンでありながら、ベストイレブンにも選出された。3バックの左を主戦場とする190cmの左利きCBで、代表では手薄の左WBもこなすことから、フェルマーレンの比較対象となっていた。
ベテラン偏重が目立つベルギーだが、将来有望な若手が次々と現れているのが現状だ。世代交代を懸念するアナリストやファンは、今も多くベテランが残り続ける状況に危機感を募らせている。
選出に所属リーグを考慮せず
今大会唯一、Jリーグから出場する選手として日本では注目を受けるフェルマーレンだが、ベルギー人にとって極東の日本のリーグはほとんど馴染みがなく、欧州トップクラスのリーグに所属していないフェルマーレンの選出に対しては、ベルギー国内のメディアは奇特な目で見ているのが現状である。
しかしロベルト・マルティネス監督は、所属しているリーグを代表選考の基準にはしていない。過去に中国のクラブに所属していたMFアクセル・ビツェル、FWヤニック・フェレイラ・カラスコ、アメリカMLSでプレーしていたDFローラン・シマンは、欧州から離れても選出され続けており、フェルマーレンも例外ではない。所属しているリーグやクラブを問わず、各選手と綿密に連絡を取り合い、常にパフォーマンスをチェックしている。
若手の台頭も著しいベルギーだが、国際大会から遠ざかっていた低迷期の2006年から代表チームでプレーし続けるフェルマーレンは、誰よりもチーム状況を把握しており、若手選手にはない豊富な経験も備えている。
Jリーグでの刺激的な挑戦によってパフォーマンスを維持し、健在を証明し続けているのである。
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Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。