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EURO2020で快挙達成のデンマーク。サッカー界で最も愛されるチームに

2021.06.27

 現在、サッカー界で最も愛されているチームはデンマーク代表だろう。EURO 2020のグループステージで開幕2連敗から決勝トーナメント進出という史上初の快挙を成し遂げ、世界中から祝福された。

「デンマークには脱帽だ」

 第3節のロシア戦に快勝してグループステージを突破すると、ノルウェーの『VG』は「まるで北欧のブラジルのようにロシアを粉砕」と報じ、スペインの『MARCA』は「9日間泣いていたパルケン・スタジアムがパーティーに」、アメリカの『CNN』は「おとぎ話が現実のものに」と伝えた。

 そして英紙『Daily Mail』は「彼らはエリクセンのため、国のためにやってのけた。デンマークがEURO2020で決勝トーナメントに進出だ。これを喜ばない人がいるだろうか?」と綴った。

 確かに、彼らのグループ突破を喜ばない人がいただろうか。デンマークに2位の座を譲ることになり、3位で敗退したフィンランドのマルック・カネルバ監督も「デンマークには脱帽だ。彼らは本当に2位の座にふさわしいと思う」とデンマークを称えた。

 国際大会では、EURO 2016のアイスランドや2014年W杯のコスタリカのように台風の目になって人気者になるチームが出てくるが、今大会はそれがデンマークなのだろう。「デンマークはすべてのサッカーファンにとって2番目に好きなチームになった」と地元紙『BT』も伝えている。

 彼らが世界中から注目されるようになったきっかけは、クリスティアン・エリクセンのアクシデント。ピッチ上でエリクセンの命を救ったDFシモン・ケアは、5日後のベルギー戦への出場を迷ったという。それでもチーム全員で乗り越えようと誓い、主将としてピッチに立ってチームを牽引した。そしてデンマークは、世界ランク1位のベルギーをギリギリまで追い込む。1-2で敗れたものの、シュート数は22対6で圧倒した。

 気づけばグループステージ終了時点でのシュート数は、3連勝のイタリアを抑えて今大会最多の61本。枠内シュートも22本で最多を誇っている。

 彼らがこうして世界中のサッカーファンの支持を勝ち取ったのは、あのアクシデントがあったからというより、それを乗り越えてみせたからだ。だが、これほど愛されるチームになるなんて、数年前には考えられなかった。

指揮官の下で絆が強まる

 2018年のW杯をベスト16という成績で終えた後も、デンマーク代表は注目を集めた。ただ、その時は決して好意的な視線ではなかった。選手の肖像権などを巡って選手組合とデンマークサッカー連盟の交渉が難航し、その年の9月の親善試合では普段の代表選手たちを起用できなかったのだ。代わりに国内3部以下のアマチュア選手たちがスロバキアと親善試合を行った。

 これには国内のファンから批判の声が上がったという。チェルシーに所属するDFアンドレアス・クリステンセンは「支持を得られるかは自分たちのパフォーマンスと結果次第だった」と当時を振り返り、今は「ファンに対してよりオープンになったんだ」と明かす。

 そんなチームの舵を取るのがカスパー・ヒュルマンド監督だ。エリクセンのアクシデントの際には冷静に対応したが、試合後の会見で涙を流してファンの心を鷲掴みにした。デンマークのPR会社もヒュルマンドの言動を高く評価し、「今大会がどんな結果になっても彼は英雄だ。いつかデンマークの勲章を授かるだろう」と称えた。

 エリクセンが卒倒した後の試合の再開についてUEFAから提示された選択肢(当日再開か翌日正午の再開)についても、批判したのはヒュルマンド監督だった。そういう正直な言動が愛されるゆえんだという。

 選手からの信頼も厚い。DFクリステンセンについて「獰猛性」を求める意見が記者から出ると、「タトゥーでも入れろと言うのかい? もし私が最高峰のクラブで監督を任されてCBを獲得するのなら、真っ先に彼を獲得する」と断言してみせた。

選手からの厚い信頼の下、チームの絆を強めているカスパー・ヒュルマンド監督

 そんな監督が率いるチームは日に日に絆を強めている。グループステージ第3戦のロシア戦でクリステンセンが強烈なロングシュートを決めた際には、チームメイトが自分たちの耳をつかんで笑った。チェルシーで“ビッグイアー”を掲げたクリステンセンへの冗談だった。

 試合後、グループステージ突破に沸くチームは、ホテルに直行せずにわざわざコペンハーゲンの市街地を通り、チームバスの中からファンのお祭り騒ぎを確認してホテルに戻ったという。

新たなスターも誕生

 そして、彼らには新たなスターも誕生した。今大会の主役になりつつある20歳のミッケル・ダムスゴーだ。エリクセンの代役として起用された若武者は、ロシア戦で先制ゴールをマークして一躍時の人になった。

 ノアシェラン時代から同選手を指導しているヒュルマンド監督は、そのテクニックとドリブルを評価して「ダムシーニョ」と呼んでいるが、『BT』紙は「ダムシーニョ、ダムシエスタ、ダムサドーナ! どんな呼び方でもいいが、デンマークに新たなスターが誕生した」とロシア戦で同選手に満点の採点をつけた。

20歳のミッケル・ダムスゴーはロシア戦で先制弾を決めるなど、新たなヒーローに

 今のデンマーク代表は、カスパー・シュマイケルがいるせいか、2016年にプレミアリーグを制した“ミラクル・レスター”を思い出させる。そうなると気になるのは大会前の優勝オッズだが、レスターの「5000倍」には程遠い「29倍」だった。

 確かにデンマークはFIFAランク10位の強豪だ。奇跡なんて起こさなくても、彼らは十分に優勝を狙える実力者なのだ。


Photos: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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