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衛生基準はどこへ? マスク未着用、ディスタンス無視のEURO2020

2021.06.16

 いよいよ開幕したEURO2020。スタンドの様子を見ていて、何か気が付かないだろうか?

 ほとんどのスタジアムで、ファンはマスクをしていないし、していたとしても“あごマスク”か“ひじマスク”である。珍しくマスクをしている人がいるな、と思ってよく見ると、それはUEFAの場内スタッフだったりする。

 ソーシャルディスタンスも守られているように見えない。肩を組んで歌っている様子も普通に見る。テレビ局のカメラもそんな“不届き者”の姿を避けようとしている様子はない。カメラがクローズアップすることで飛び跳ねて喜ぶ者がいれば、ウイルスをまき散らしかねないのに。

 エリクセンの不幸なアクシデントがあったデンマークvsフィンランド。ファン同士がエールを交換したり、声をそろえて無事を祈ったりするシーンが美談として語られたが、誰もマスクなどしていないし、ソーシャルディスタンスに気を遣っている様子もなかった。さらに言えば、ノーマスクの密集・密接を問題視する者もいない。

基準が守られない3つの理由

 UEFAの公式ガイドブックにはスタジアムごとの衛生基準が明記してあり、それぞれ現地の事情によって少しずつ異なっているのだが、マスク着用、1.5mのソーシャルディスタンス確保、座席を動かないことの3つは全11会場で共通している。衛生基準を守らない者は退場させられることもある、ともある。

 なのに、なぜこんなことになっているのか? 考えられる理由は3つある。

 1つは、単にコントロールできないこと。

 例えば、家族など共同生活者であればソーシャルディスタンスを維持する必要はない。チケットだって並びの席を取れる。そして、本当に家族であるかを証明する術はない。ノーマスクで入場するには医師の証明書が必要だが、スタジアム内で勝手に外した者に証明書の提示を求めるのは不可能だろう。

 2つ目は、国の衛生基準とUEFAのそれの食い違い。例えば、屋外でのマスク着用が強制ではないデンマークにおいて、スタジアム内だけマスクを強制するのはそもそも無理がある。

 2に関連して3つ目は、感染状況は日々改善し、衛生基準も緩和されているのだが、UEFAの基準がアップデートされていない。衛生基準を策定するのも、それが実行されているかを取り締まるのも、地元政府の役目であってUEFAの役目ではない。厳しい原則をUEFAがアナウンスしても、地元政府がそれを厳密に適用しない、ということもあるだろうし、UEFAはそれに異を唱える立場にない。

最も厳しいのはセビージャ

 6月14日までに見た10試合のうち、マスク着用、ソーシャルディスタンス確保に最も厳しかったのはスペインのセビージャ(スペインvsスウェーデン)だった。

セビージャ会場ではマスク着用義務がおおむね守られており、国王フェリペ6世やチェフェリン会長もマスク姿だった

 国王ほか全員がマスクを着用。ローマ(トルコvsイタリア)ではノーマスクだったチェフェリンUEFA会長も、国王の横ではきっちりマスクを着けていたし、試合終了後にルイス・エンリケが最初にしたのはマスクを着けることだった。その一方で、ノーマスク姿がテレビカメラに捉えられたイーケル・カシージャスは激しい批判を浴びることになった。

 スペインではいまだにすべての公共スペースでのマスク着用が義務付けられており、違反すれば罰金。

 とはいえ、警察もグループで騒いでいない限り、ノーマスクで歩いている分には見逃すようになっている。屋外でのマスク着用義務が近々解除されるという噂もある。

 セビージャのカルトゥーハスタジアムでのラウンド16の試合(6月27日)では、他スタジアム並みのノーマスク姿が見られるかもしれない。


Photos: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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