【月間表彰】マジンガーZも参戦!ツエーゲン金沢が挑戦的な企画を続ける理由
DAZNとパートナーメディアによって立ち上げられた「DAZN Jリーグ推進委員会」の活動の一環としてスタートした「月間表彰」。2021明治安田生命Jリーグで活躍した選手、チームなどを各メディアが毎月選出。フットボリスタでは「月間MIC」(Most Interesting Club)と題し、ピッチ内外で興味深い取り組みを行ったクラブを紹介する。
5月度は「デビルマン」「マジンガーZ」「キューティーハニー」など、数々の名作を生み出した人気漫画家・永井豪氏とのコラボ企画『ツエーゲンZ』を実施したツエーゲン金沢を選出。スタジアムで“ヒーローショー”を定期開催しているクラブだからこそ実現したイベントの背景にはどのような考えがあるのか。ツエーゲン金沢 事業企画部部長・中山大輔氏に話を聞いた。
「ヤサガラスがいるから金沢は行くか」
――クラブにとって2年ぶりとなるコラボイベントとなる『ツエーゲンZ』を『Jリーグ推進委員会 2021年5月度月間MIC』に選出させていただきました。ツエーゲン金沢らしいインパクトのある企画ですね。
「ありがとうございます。(コラボレーションの理由として)まず永井先生が地元・石川県輪島市のご出身であること。その上で、我われはクラブマスコットである『ゲンゾイヤー』と『ヤサガラス』の“ヒーローショー”をスタジアムイベントの基軸に置いているので、(永井豪作品である)『マジンガーZ』は親和性が高く、前々から計画していました」
――前提として、そもそもツエーゲン金沢はなぜヒーローショーを重視しているのでしょうか? ゲンゾイヤーはクラブ公式マスコットである『ゲンゾー』が進化し、“バトルモード”に変身したという斬新な設定です。
「経緯としてはゲンゾーの着ぐるみが老朽化していて、変身させざるを得なかったんです(笑)。どんなリニューアルにするかを考える中で、他クラブと差別化する意味で仮面ライダーのようなヒーローがいても面白いかなと思いまして」
――ヒーローショーでは敵役となるヤサガラスに人気が出るという現象が起きています。ゲンゾーの友人である『ナンシー』に恋心を抱くなど、憎めないキャラクターはどのように考えられたのですか?
「実は予算的な事情もあって、当初ヤサガラスはヒーローショー構想の中にはいなかったんです。そうしたら、ゲンゾイヤーを作っていただいた造形作家さんが『敵役がいないと面白くないよ』とアドバイスいただき、低予算で作っていただけることになって。キャラクター的にはUSJの『ウォーターワールド』を参考にしています。敵役がコミカルな感じでお客さんをいじりながら、最後はヒーローに倒される。マスコットの設定を考えているクリエイターや(ヤサガラスを演じる)劇団の方と何回も協議して、どんどん展開が広がっていきましたね」
――確かにヒーローショー以外でも公式マスコットの稼働が増えています。昨年実施した企画『エア遠征プラン』(アウェイサポーターが金沢の特産品を楽しみつつ、顔写真入りのパネルをスタンドに掲出できる権利の販売企画)では、購入者の多くがパネルの顔写真に自分ではなく、ヤサガラスを選択するという“珍事”が話題になりました。
「正直に言って、この企画はヤサガラスありきで思い付いたところもありました。(ヤサガラスは)悪役なのに低姿勢で、おもてなし精神があるキャラクターに仕上がったこともあり、アウェイサポーターからの人気が高いんです。試合開催日にはクラブ関係者の中で一番(アウェイサポーターから)お土産をもらっていると思います(笑)。地方クラブにとってアウェイサポーターの集客はすごく重要。すべてのアウェイ戦に行けるサポーターは少ないと思うのですが、『ヤサガラスがいるから金沢は行くか』と思ってもらえるような施策を続けたいですね」
――そんな個性的なマスコットとマジンガーZのコラボレーションが今回、実現した訳ですが、“ヒーロー”という共通点はありつつも、世界観の違いは永井豪氏サイドとの交渉において障害になりませんでしたか?
「割とすんなりとイベント趣旨をご理解いただき『これとマジンガーZが絡んだら面白いよね』と言ってくださいました。『マジンガーZ×ヤサガラス劇場』をはじめ、『水木一郎さん・影山ヒロノブさんのライブ』『マジンガーZの主人公「兜甲児」に扮したオリジナル選手紹介』など、作品のPRにも繋がるようなコラボレーション内容を評価いただいたと思います。もちろん、永井先生が石川県のご出身ということも大きかったと思いますし、大宮アルディージャとのコラボレーション実績もお持ちだったので、サッカークラブに対する理解があって助かりました」
――『ツエーゲンZ』をはじめ、ツエーゲン金沢のイベントは毎回キービジュアルのクオリティが高いこともコラボレーション相手から信頼を得る重要な要素だと思います。
「そこはクラブとして大切にしています。絶対に手を抜きません。サッカークラブらしくないビジュアルは賛否両論あるのですが、すべてのイベントで統一したデザインのコンセプトを持つことで予算的にも抑えることができています」
――それは同じ制作会社に毎回発注することでディスカウントが発生しているということでしょうか?
「(制作会社ではなく)フリーのクリエイターさんを集めたユニットを組んでいて、そこでアイディアを持ち寄ってデザインを決めています。先ほどお話したヒーローショーのストーリーも、スタメン選手紹介映像も、このユニットで作っているので、同じコンセプトのデザインが実現できています」
――ユニットのメンバーは中山さんが集められたのですか?
「私が入社する前からツエーゲンに携わっていただいている方もいますし、企画の相談をする中で『こんな人がいるよ』と紹介してもらった方もいます。イベントを積み重ねるごとに輪が広がったという形です。お互いに考えを共有できていることもデザインの質が高まっている重要なポイントです」
――毎回、イベントのビジュアルに選手たちが登場していることも、高いクオリティをキープしている要因だと思いますが、どのようにイベントや撮影の趣旨を説明されているのですか?
「最近ではもうみんな、慣れてきているので、細かい説明をしなくても『これをかぶったらいいんでしょ(笑)』という感じで楽しんで撮影してもらっています。特にキャプテンの廣井(友信)選手を中心にベテラン勢が協力的なので、若手選手もこういう活動に違和感を持たないでもらえる。クラブにとって選手たちの協力はすごくありがたいですね」
新しいチャレンジをしないと衰退する
――6月19日(土)に開催される対京都サンガ戦では、1980年代のヤンキー文化にスポットをあてたイベント『ツッパリナイト』が開催されます。これもインパクトがあるキービジュアルですね。
「2018年に開催した『バブリーナイト』からスタートし、2019年の『パラパラナイト』の流れを汲む『ジェネレーションシリーズ』です。クラブスタッフの人数も少ないので、イベントの企画を考えるのはリソース的に大変なのですが、シリーズ化することでスムーズに運営できるメリットがあります。『バブリーから始めて、ギャルをやったら……次はヤンキーだよね』みたいな(笑)。開催時期的にも6月のナイトゲームに固定化することでファン・サポーターにとっても定番化したイベントにできると思っていて、毎年時期が近づいてきたら『今年は何かな』と、楽しみに思ってもらえばありがたいですね」
――ツエーゲン金沢は40代の観戦者が多いというデータがあります。イベントを企画する上で、その層をメインターゲットとして意識しますか?
「40代はファミリー層を含めてボリュームゾーンとして狙っています。ただ、あまりターゲットを狙い過ぎてもパイが限られるので、そのイベント世代ではない人も過去を知る意味で楽しんでもらえればとは思っています。『ツエーゲンZ』(マジンガーZ)もリアルタイムは40代より上だと思うので、おじいちゃんと孫の関係などで、会話が生まれるきっかけになればうれしいです」
――『ツエーゲンZ』や『ツッパリナイト』といったイベントはスタジアムへの集客貢献が主目的だと思うのですが、観客動員制限がなされるコロナ禍において別の目的・KPIはクラブ内で設定していますか?
「おっしゃる通り、2019年までは来場者数を主目的として活動していましたが、コロナ禍ではそこを目的に設定するのは難しいです。なので、イベントにかかる費用はグッズ収入で回収できればと思っています。年々コラボグッズの数を増やしていますし、そこの売上は重視しています。あとは『UGC(User Generated Content)』ですね。ファン・サポーターの方々の発信がクラブのブランド力を高める上で重要なので『ツッパリナイト』でも当日に実施する特別な選手紹介のキャッチコピーを一般募集するなど、UGCの発生を促すことは意識しています」
――今回はイベントをテーマにお話を伺いましたが、『エア遠征プラン』『ユニホームサイン代行キャンペーン』など、コロナ対策においても次々と新しい施策を実施されています。そうしたツエーゲン金沢の“企画力”の源はどこにあるのでしょうか?
「クラブ理念として『挑戦を、この街の伝統に』を掲げています。新しいチャレンジをしないと衰退します。衰退すると伝統にはなりません。石川県は伝統文化の街ですが、時代に合うように進化しているからこそ今があります。サッカークラブという枠に収まらない価値を提供していこうと。これまではスタジアムを中心に様々な企画を考えてきましたが、コロナ禍においてはそれでは足りません。そういう基本姿勢がクラブ内に浸透しつつあるのは感じています」
――今日はありがとうございました。『ツッパリナイト』以降の新しい企画も楽しみにしています。
「ありがとうございました。ファン・サポーターの方々とともに今後も新しい挑戦を続けていきます。ツエーゲン金沢というクラブがユーモアを持ちつつ、面白いことをやっているなと、注目してもらえればとてもうれしいです」
Photos:©zweigen kanazawa
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime