6月11日に開幕したEURO2020に先立ち、イタリアでは地上波のテレビ中継を担当する国営放送『RAI』が、7日から10日まで4夜連続で代表チームの密着ドキュメンタリー番組を放送した。
アッズーリの日常に密着
「SOGNO AZZURRO(青色の夢)」と題されたこのドキュメンタリーは、イタリアサッカー連盟(FIGC)全面協力の下、新型コロナウィルス感染拡大などを経て活動が再開された昨年9月から10カ月間にわたって長期密着取材を行って作られたもので、イタリア代表としても初めての試みだった。
1回40分の4夜連続ドキュメンタリーの内容は、非常に濃いものだった。
フィレンツェ近郊コベルチャーノのテクニカルセンターにおける練習風景はもとより、フィジカルトレーニングやミーティングの様子も紹介。そして番組内では、招集選手たちはもちろん、ロベルト・マンチーニ監督やスタッフ、アリーゴ・サッキ氏やマルチェロ・リッピ氏ら元代表監督なども含めた関係者のインタビューがふんだんに盛り込まれていた。
さらには新しく代表入りした選手が食事の席で歌を歌わされる伝統の”儀式”の様子や、ミーティングの席ではマンチーニ監督だけではなく代表チームの団長を務めるジャンルカ・ビアッリ氏が選手たちに訓示を述べるシーンなど、通常であればまず表に出ない貴重なシーンも多く紹介された。
ロシアW杯の欧州予選敗退を関係者証言によって振り返ったり、コロナ陽性で自宅隔離となったマンチーニ監督がリモート指導を行う様子を紹介したりと、イタリア代表がどのように困難を乗り越えてチーム作りを進めてきたかが丁寧に紹介された。
低視聴率も、内容は高評価
この番組は『RAI』が2020年に立ち上げた、次世代に通用するコンテンツの開発と実験を目標としている『新フォーマット開発部』のディレクションによって製作されたもの。テレビ局も力を入れており、大胆にもイタリアで最もテレビ視聴者がいるとされるプライムタイムの20時30分から、通常のバラエティ番組を休止して放送された。
しかしいくらカルチョの国といえど、これはさすがに前衛的過ぎたようだ。7日に放送された第1回の視聴率は、通常『RAI』が同時間帯に放送しているバラエティ番組の約半分という結果が出た。
地元メディアの間では「『RAI』の上層部がこれに憤慨し、番組の放送時間を変更するよう急遽指令を下した」というニュースまで流れた。しかし翌8日の放送時間に変更はなく、結局ドキュメンタリーは当初の予定通り、プライムタイムに4夜連続で放映された。
『RAI』は最終登録メンバーの提出期限となった5月31日に、イタリア代表の事前合宿参加メンバーを全員集めたバラエティを放送しており、この一連のプッシュには「誇張だ」という評価も地元紙ではなされていた。もっとも「SOGNO AZZURRO」については低視聴率の一方で良質な内容を評価する声もあり、「『RAI』がやった最良の仕事の1つ」という反応もネットでは上がっていた。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。