今年2月20日の『シュピーゲル』WEB版に、鎌田大地愛を思いのままに綴るコラムが。その「私はカマディスタ(Kamadista)」だという気になる書き手は、小社刊『うつ病とサッカー 元ドイツ代表GKロベルト・エンケの隠された闘いの記録』の著者でもあるドイツの有名ジャーナリストで作家のロナルド・レング氏ということで今回、このエッセー記事を翻訳・転載させてもらうことになった。それは恋をする時のように、彼を初めて目にした時から始まったそうだ。
※『フットボリスタ第84号』より掲載。
娘がテレビの前にいる私に「パパ、何してるの?」と聞く時、「サッカーを観ている」と答えることが珍しくなった。たいていの場合、私は「鎌田を見ている」と言う。
今、私がサッカーで興味があるのは、どのチームがブンデスリーガで優勝するかとか(それはどうせわかっている)、世界のベストチームがどんな戦術かといったことではなくなっている。私が知りたいのは、アイントラハト・フランクフルトでプレーするこの24歳の日本人選手が、どのような進化を見せるかである。世界の他の人たちは、ある程度しっかりしたチームでプレーする面白い選手くらいにしか思っていないかもしれないが。
素晴らしい選手を発見する時の感じは、これまでも好きだった。それは恋をする時の感じに一番近い。相手を初めて目にした時に始まり、激しく心臓がドキドキする。
2年前の夏の日、一瞬で完全に釘づけに
私の鎌田大地に対する執着は、2019年8月1日に始まった。私は家族とフランクフルトに住む両親を訪ねていて、息子がどうしても行きたいと言うので、EL予選のフローラ・タリン(エストニア)戦を観に行った。夏の風が肌にやさしく触れ、4万8000人の観客のほとんどがチームカラーの白い服を着ている中で、穏やかな陽気に誘われ、私はただその瞬間を愉しみ、試合の中身は半分くらいしか集中して観ていなかった。……
Profile
ロナルド レング
1970年、フランクフルト生まれ。スポーツジャーナリスト、作家。エンケと友情を築いたバルセロナに10年間滞在。ドイツのメディアにスペインサッカーについての記事を提供。ドイツ年間最高のルポルタージュに与えられる賞を8度受賞。代表作に村の6部リーグのチームからプレミアリーグでプレーしたGKラース・リースの伝記『The Keeper of Dreams』がある。エンケについて綴った弊社刊『うつ病とサッカー』は彼の最後の作品で、2011年のウィリアム・ヒル、スポーツブック賞(年間最優秀書籍に与えられる)を受賞している。