スピリット・オブ・シャンクリー会長インタビュー前編
4月18日に発表された欧州スーパーリーグ(ESL)構想。その創設クラブとしてプレミアリーグからはリバプール、マンチェスター・シティ、 マンチェスター・ユナイテッド、 チェルシー、アーセナル、トッテナムのいわゆる「ビッグ6」が名を連ねたが、地元でクラブを支えるサポーターたちは猛抗議。わずか2日後には、全クラブがESL撤退へと追い込まれていた。
サッカーの母国イングランドではクラブごとに、「サポーターズトラスト」や「サポーターズユニオン」、「サポーターズグループ」と呼ばれるファン同士が集まって結成した組織がある。
例えば「シャンクリーの精神」と名づけられたスピリット・オブ・シャンクリー(SOS)は、クラブや大会の都合で不利益を被ったファンを守るリバプールのサポーターズユニオンだ。SOSの運営委員は問題解決を目指して直々にクラブと交渉の席に着き、ファンの率直な声を届ける重要な役割を果たしている。
ファンとクラブの橋渡し役も担っているサポーター集団は、今回のESLをめぐる騒動をどのように受け止めているのか? SOS会長のジョー・ブロット氏にオンラインで詳しく話を聞いた。
「サッカークラブは私たちのもの」
地位や規模に関係なくクラブは地域コミュニティの中心を担っている
――リバプールがESL参加を発表した4月18日夜、SOSはTwitter上に「ファンを代表する組織として、恥ずかしく感じると同時にショックを受けています。この決断には断固反対です。金銭欲に取り憑かれたFSG(フェンウェイ・スポーツグループ/リバプールを所有するアメリカの投資会社)は、私たちファンを無視しました。フットボールは私たちのものです。彼らのものではありません。私たちのフットボールクラブは私たちのものです」と投稿されていました。
この「私たちのフットボールクラブは私たちのもの」という言葉には、どのような想いが込められているのでしょうか?
「イングランドでは、どの街へ行っても必ずフットボールクラブがあるんです。それも1つの街にいくつも、大きいクラブも小さいクラブも混在しています。例えば私たちが暮らしているリバプールにも、リバプールやエバートンのようにプレミアリーグで名の知れたクラブもあれば、マリーンFCのような8部を戦っているクラブもあるんです。でも、そうした地位や規模は関係ありません。プレミアリーグのクラブであろうと、8部のクラブであろうと、試合日になればスタジアムに大勢の地域住民が駆けつけるからです。馴染みのある顔を見つけて、クラブへの愛で繋がり合っている仲間たちと定期的に交流を深められる。そんな場所になっているんです。フットボールクラブがある街の住民は、ともに苦楽を乗り越えて育んだ強い絆で結ばれていきます。それは試合がない日も同じです。家族のように寄り添い助け合って暮らしているんですよ。その一例が、フードバンクの支援活動ですね。イングランドのフットボールファンは、地域で支援を必要としている人の力になろうとスタジアムで積極的に食品を寄付しています」
――リバプールでもコロナ禍以前は、アンフィールドやグディソン・パークで試合日にファンが缶詰やパスタなどの日持ちする食品をスタジアムに持ち寄っていましたよね。特にリバプールではフードバンクに頼らないと食べていけない貧困層が急増していて、危機感を感じたリバプールファンでSOS幹部のイアン・バーンとエバートンファンのデイブ・ケリーが2015年にチャリティ団体「ファンズサポーティング・フードバンクス」を立ち上げて、両クラブのファンから集めた食品を地元のリバプール北部のフードバンクに運んでいました。
当時はそのフードバンクに集まる食品の25%が、試合日にアンフィールドとグディソン・パークで寄付されていたくらいです。ライバル関係を超えた慈善活動も生まれていますよね。……
Profile
田丸 由美子
ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。