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【対談】渡邉晋×杉崎健。監督と考える「サッカーアナリスト」の存在意義

2021.04.30

『サッカーアナリストのすゝめ』発売記念企画#1

4月30日発売の『サッカーアナリストのすゝめ』は、ヴィッセル神戸、ベガルタ仙台、横浜F・マリノスで分析を担当した杉崎健アナリストが、Jリーグ最前線で培ってきた7つのメソッドをまとめた意欲作だ。

本書には特別企画として、杉崎アナリストがベガルタ仙台時代に「眼」として支え、今季からJ2のレノファ山口を率いている渡邉晋監督との特別対談が収録されている。今回は発売を記念して、その一部を特別公開! 日本屈指の戦術家と「サッカーアナリスト」の存在意義について考えていく。

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ホワイトボードから伝わる言語化能力

杉崎「渡邉監督の言語化能力の高さには(ベガルタ)仙台時代に衝撃を受けました。どの監督もホワイトボードで戦術を説明しますけど、使い方は人それぞれなんですね。マグネットを動かす監督もいれば、絵を描く監督もいます。でも、渡邉監督はびっちりと文字を書くんですよ」

渡邉「今は減ったけどね(笑)」

杉崎「僕もこの本を書いていて感じたんですけど、言葉にして自分の意図を伝えるのは本当に大変ですよ。まず思考が整理されていないといけませんし、受け手に理解してもらえる言葉を選ばなければいけないので」

渡邉「僕はみんなが同じ言葉で同じ絵を描かなきゃいけないと考えているんですよね。それこそ岡田(武史)さんが『くさび』という言葉1つでも、コーチは『縦パス』、選手は『横パス』を思い浮かべるというお話をされていて。一人ひとりが違うイメージを抱いていたら気づかぬうちに食い違いが生まれてしまうので、まずは言葉と定義を一致させてコーチ陣も選手も感覚を共有できるようにしています」

南アフリカW杯では監督として日本代表をベスト16に導いた岡田武史氏。現在はJ3のFC今治で代表取締役会長兼オーナーを務め、自身の指導・育成哲学を言語化した「岡田メソッド」を浸透させている

杉崎「しかも渡邉監督は字も綺麗なんですよね。色分けもされているので一目で意図が理解できるんです」

渡邉「今も攻撃に関わる文字は緑、守備に関わる文字は青、強調する文字は赤を使っているね」

杉崎「だから選手はホワイトボードにびっちり書かれている文字を目の当たりにしても、まったく嫌な顔をしていなかったのを覚えています。むしろそれをすべて吸収したら『やれるぞ』という自信があふれてくるような信頼感がありましたね。そうして自チームのやり方は確立されていたので、次の対戦相手の直近3、4試合を見れば、僕も頭の中で実戦がシミュレーションできました」

渡邉「次の対戦相手をスカウティングしても、直近では僕たちのプレーモデルと正反対のチームとしか試合をしていない場合もあるんですよ。そこから抽出できた長所や短所が、僕たちと対峙した時にそのまま発揮されるかどうかはわからないんですけど、スギは自チームも知り尽くしていたので完璧に予測できていたんですね。だから、前の試合で失敗したプレーも使ってくれていて。パスが通らなかったシーンでも、スペースが空いてボールが出た瞬間に映像を切って、次の対戦相手なら通るだろうと。そういう見せ方は僕自身も勉強になりましたね」

監督ではなくチームのためのアナリスト


――そこから忖度が生まれてしまったりしないんですか?

杉崎「その監督が何に目を向けているのかがわからないと、逆に何を見逃しているのかがわからないんですよね。そうやって違う視点を提供するために理解しておく必要があるということです。監督の目線を知っているのと、それに合わせるのは話が別ですね」

渡邉「実際にスギも客観的に現象や数字をもとにサッカーを捉えていたので、僕の見落としを拾ってくれていました。感情を抜きにしていろいろな角度から『ここはこうじゃないですか?』と意見を投げかけてくれるので、僕にとっては大きな気づきになりましたね」

杉崎「あとよく誤解されるんですけど、Jクラブでアナリストを評価するのは強化部ですからね。監督から好かれなければクビになるというわけではありません。あくまでもチームが勝つために働いているので、おかしいと思ったことには『おかしい』と言わなければいけないです」

渡邉「それこそスギは入口から違ったんだよね。アナリストとして(仙台に)やってきた直後に『ピッチで球出しとかできる?』と聞いたんですけど、『まあそれくらいだったらやりますけど…』という率直な反応が返ってきたんです。僕は指導者として働くための下積みとして、コーチ時代に分析を担当していましたが、やっぱり兼任だと調べ切れなくて、結局は監督の欲しいデータを優先して集めてしまっていた。

 でもスギは最初からアナリストとして上を目指していて、僕に忖度をしませんでした。だから、僕自身も受け入れる態勢が取れたんですよね。さらに専門職として膨大な量の情報を集めていたので、例えばふと次の対戦相手の選手について細かく質問しても、プレースタイルから性格までパッと答えてくれていた。そうやって結果を出してくれたので、すぐに信頼関係を築けましたね。だから1年でスギが引き抜かれてしまった後は、後継者がなかなか見つからなかった。僕の中でアナリストと呼べるのはスギだけですね」

今季から渡邉監督が指揮を執るレノファ山口では、山本大貴テクニカルコーチと弓谷蓮テクニカルコーチが分析を担当。20代の若きアナリスト2人へ抱く期待も『サッカーアナリストのすゝめ』で明かされている

杉崎「そんなことはないと思いますが、今でも結果を出し続けるのは意識していますね。さらに自分が提示したデータやレポートの通りになれば、一番信頼をつかめるので。もちろんすべてが予想通りにはならないですけど、その成功率を1%でも高くするために徹底的に調べるのがアナリストの仕事です」

Susumu Watanabe
渡邉 晋

1973年10月10日生まれ。現役時代はコンサドーレ札幌、ヴァンフォーレ甲府、ベガルタ仙台でDF としてプレー。2004年に引退すると、ベガルタ仙台で巡回コーチ、ユースチームコーチ、トップチームコーチ、トップチームヘッドコーチを歴任し、2014年のシーズン途中に同クラブ史上初のOB 監督としてトップチーム監督へ就任。以降、6年間で2017年のルヴァン杯ベスト4進出、2018年の天皇杯準優勝などクラブ史上初となる成績を残した。2021年よりレノファ山口の監督を務めている。


Edition cooperation: Asami Kaji (footballista Lab)
Photos: Getty Images for DAZN, Getty Images, ©RENOFA YAMAGUCHI FC

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サッカーアナリストのすゝめベガルタ仙台分析杉崎健渡邉晋

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista

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