感動的なドラマの最終回の後も現実は続いていく。W杯準優勝というエンディングを迎えたクロアチア代表だが、「銀メダル組」の優遇、区切りとなるはずのEURO延期、進まぬ世代交代などが重なり、低迷が続いている。感動作の続編として現在上映されているのは、一体誰のせいでこうなったのか責任を擦り付け合うメロドラマである。
ダリッチ監督の唐突な「若手批判」
W杯予選のマルタ戦を終えた後の記者会見で、クロアチア代表を率いるズラトコ・ダリッチ監督は堰を切ったようにチームの内部事情を激白した。
「私は昨日のミーティングで『我われはチームになっていない』と選手たちに言った。W杯前はチームだったはずが今は違う。それが結果として跳ね返ってきたんだ。私はルカ(モドリッチ)、ビダ、ロブレン、コバチッチ、バデリらに対して大きな敬意と誇りを抱いて今回の代表活動にやってきたが、誰もがそうでなければならない。若手たちは能力もあるし実力もあるものの、チームの一員として代表活動に来るべきで、我われ全員に敬意を払うべきなんだ。彼らが意図的に敬意を払っていないと言うつもりはないが、彼らはチームの中に入り込んでない。だからこそ時間とセレクションが必要だ」
ベテランと若手の世代間ギャップに触れた唐突な発言に記者陣は深入りできないまま、指揮官は「(EURO事前合宿が始まる)5月25日まではインタビューに答えるつもりはない。連絡しないでくれ」と煙に巻いて壇上から下りた。
あの発言の真意は何なのか。メディアの間であれやこれやと詮索が行われている。火に油を注いだのが「いつも余計な一言が多い」デヤン・ロブレンだ。『スポルツケ・ノボスティ』紙の独占インタビューで彼はこう語る。
「監督が言っていることに真実は間違いなく存在する。詳しくは公にしないけど、新入りは自らが代表に値する選手であることを証明すべきだ。試合だけでなく練習においてもだ! ベテランの数人は彼らに面と向かってぶちまけたよ。俺たちが若造だった頃は、どんな試合や練習でも死ぬつもりでやった。今の新入り……俺は新たな世代を『お子さま連中』と呼んでるけど、彼らはすべてを安易に考えている。代表チームやベテランに対する態度を変えるべきだ!」
ロシアW杯準優勝から2年9カ月。あれほどまでに燃え上がった「ヴァトレニ」(「炎」を意味するクロアチア代表の愛称)への国民の愛情は薄れ、6月開幕のEURO2020は楽観的に迎えられない状態だ。ダリッチ監督やロブレンの発言を真正面に受け止められないのは、世代交代を推し進められずに弱体化した元凶こそ彼らにあり、非難の矛先を世代間という対立構造に“飛び火”させたからだ。
代表監督のロジックに矛盾が生じているのはなぜか。それには時計を巻き戻し、W杯以降のクロアチア代表について時系列に語る必要がある。
銀メダル組?上院議員?進まない世代交代
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Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。