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「現代GKのモデル」ファン・デル・サールと「ユナイテッドらしさが詰まった」ギグス。マンチェスター・ユナイテッドの黄金期を彩った2人の異才

2021.04.01

この記事は『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』の提供でお届けします。

名将アレックス・ファーガソンの下で長らくイングランドの頂点に君臨したマンチェスター・ユナイテッドにおいて、その才能を遺憾なく発揮したエドウィン・ファン・デル・サールとライアン・ギグス。2人の名手をクラブのレジェンドたらしめた、「先進性」と「らしさの象徴」というキーワードに焦点を当てて振り返る。

現代GKの“正統な”先駆者

 1992年はGKにとって受難の年だった。バックパスを手で扱うことが禁止になったからだ。GKへのバックパスが時間稼ぎに使われることが多くなっていたのは事実だが、ルール改正が唐突に行われた感は否めなかった。

 GKは足でボールを扱うことに慣れておらず、各地で珍プレーが続出する事態になった。名声を築いたGKも突如として不器用さをさらすことになってしまった。

 そんな中、平然としていたのがエドウィン・ファン・デル・サールだった。

 まるでずっとそうしてきたかのように、バックパスを足でコントロールし、正確なフィードを繰り出していた。

 足でボールを扱うことに長けたGKは以前にもいた。コロンビアのレネ・イギータ、メキシコのホルヘ・カンポスが有名だった。彼らはマヌエル・ノイアーやエデルソンなど現代のGKの先駆けとも言えるが、当時のイギータへの評価は先駆者ではなく変わり者だ。また、それはもっともでもあった。なぜなら、まだバックパスを手で扱って良い時期にあえて足を使う理由がなかったからだ。

 イギータはバックパスに手を使わず、わざと足を使っていた。ただ、イギータの狙いは実はそれではない。バックパスを捕球できる時代に足を使う理由は、ペナルティエリアの外でのプレーを想定していたからだ。ペナルティエリアを出れば、バックパスとは関係なくGKは手を使えない。当時のコロンビアとナシオナル・メデジンは高いディフェンスラインによるプレッシングを行っていた。DFの背後にある広いスペースをカバーするには、ボックスから出て足を使う必要があったのだ。

 このスイーパー兼任のGKの先駆はオランダ人である。1974年ワールドカップで準優勝したオランダのヤン・ヨングブルート。トータルフットボールと呼ばれたプレースタイルでは、オフサイドトラップの保険としてペナルティエリアを飛び出せるGKが戦略的に組み込まれていた。

 つまり、足を使うGKはオランダ人にとって珍しいものではなかった。ファン・デル・サールがアヤックスでデビューした1990年はまだバックパスの捕球が許されている。それができなくなる前提でトレーニングをしてきたGKなどいないはずだったが、オランダは別だったわけだ。ペナルティエリアの外でプレーするGKは想定内であり、バックパスのルール変更はむしろファン・デル・サールの価値を知らしめることになった。バックパスにもパニックにならない、おそらく当時唯一のGKとして。

アヤックス時代のファン・デル・サール。リーグ優勝4度、1994-95のCL制覇など14ものタイトルを手にした

 197㎝の長身。それでいてフィールドプレーヤーに劣らない足技。イギータやカンポスもそうだったが、ファン・デル・サールは少年時代にフィールドプレーヤーだった。アヤックスからユベントス、フラムを経て、2005年にマンチェスター・ユナイテッドに加入。偉大なピーター・シュマイケルの穴を埋める守護神としてユナイテッドの黄金時代に貢献した。

 当時のユナイテッドでは、今日のようにGKがビルドアップに加わるようなことはなかった。もし、そうだったらファン・デル・サールの価値はさらに高くなっていたに違いない。逆に言えば、足技を除いてもファン・デル・サールは名GKだったということだ。

 イギータはディフェンスライン裏のカバーに飽き足らず、ボールをコントロールして相手をドリブルでかわし、パスで組み立てた。その点ではイギータこそ現代のGKの祖先なのだが、過剰なリスクを冒す変わり者だったのは確かだ。明らかにスリルを楽しんでいて、そうでなければ有名な「スコーピオン」などするはずもない。ファン・デル・サールはイギータとは違う正統派のGKであり、好んでペナルティエリアを出ることもしなかった。

 長身を利したハイクロスのキャッチやパンチング、シュートストップで活躍する冷静沈着なGKだ。ただ、足技が巧いという特技があったに過ぎない。今日のGKがイギータの後継者なら、駆け上がってシュートぐらい決めても良さそうなものだが、そうはなっていない。その点で、ファン・デル・サールこそが現代GKのモデルと言うべきなのかもしれない。

加入後すぐさま、正GKを決められずいたユナイテッドにとって待望の守護神に。アヤックス時代と同じく4度のリーグ制覇と1度のCL(2006-27)をはじめ10タイトル獲得に貢献した

マンチェスター・ユナイテッドのすべて

 ラインアン・ギグスは「ジョージ・ベストの再来」だった。

 10代で活躍し、あらゆるタイトルを手中に収め、メディアの寵児だった。後にデイビッド・ベッカムがメディアの注目を浴びるようになり、ユナイテッドの栄光の「7番」もベッカムが着けるのだが、ベストの後継者は間違いなくギグスの方である。

 ベッカムがベストと共通なのはメディアの注目度と背番号だけで、プレースタイルは断然ギグスの方がベストに似ていた。風のように走り、左サイドでDFをスラロームでかわしていく。角度のないところからゴール上隅に叩き込むドリブルシュートもベスト以来の華麗さである。ギグスはウェールズ、ベストは北アイルランドと、代表チームが弱くてワールドカップに縁がないところまで似ていた。黄金時代のユナイテッドで最も天才的なアタッカーだ。

 ポール・スコールズは最も賢く、ベッカムは最も精密なキックを持っていたが、最も華のあるプレーヤーはギグスだった。ドリブルで敵をごぼう抜きし、シュートやアシストを決めるという誰もが魅了されるわかりやすさがあった。

 ベストがそうだったように、ギグスは若さの象徴だった。

 才能の塊で、何ものも恐れない。その速さと技巧で、ありとあらゆるものを置き去りにしていく。狡猾なDFも、古い体質も、全部まとめてぶっちぎっていくような爽快さとエネルギーにあふれていた。

写真は1996年のもの。DFをものともしない突破でゴールへの道を切り拓いた

 ただ、ギグスがベストと違うのは長く第一線で活躍し続けた息の長さだ。

 ジョージ・ベストも36歳までプレーしているが、後半の10年ぐらいは言わば余生みたいもので実質的には30歳以前にキャリアは終わっている。ギグスは35歳でポジションを変えた。ウイングからセントラルMFに転身し、円熟したパフォーマンスでさらに6シーズンもプレーした。若さの象徴のようなウイング時代には考えられなかったが、老練なMFとしてのギグスもまた味わい深かった。

 才能の代名詞みたいな選手だったが、それだけではなかったのだ。チーム最古参のベテランなのに骨惜しみせず走り、ゲームの流れを的確に読み、練り上げたテクニックはチームメートに自信と落ち着きを与えていた。

 1992-93シーズン、プレミアリーグの創設とともに優勝した頃のユナイテッドにはエリック・カントナがいた。その後、ベッカムやスコールズが現れ、ウェイン・ルーニーやクリスティアーノ・ロナウドの時代があった。ギグスが引退した2013-14シーズン、すでにアレックス・ファーガソン監督は勇退している。ユナイテッドが頂点へ駆け上がり、何度かのピークを経験していった過程をすべて知っている唯一の選手になっていた。

 恐いもの知らずの若手時代から重厚な晩年まで、マンチェスター・ユナイテッドらしいキャラクターをひと通り体現していて、ギグスはジョージ・ベストでありボビー・チャールトン、ダンカン・エドワーズでもあったかもしれない。ユナイテッドのすべてが詰まっているライアン・ギグスはクラブの誇りだ。唯一の汚点と言えば、ユース時代にシティに在籍していたことぐらいだろうか。

ポジションを変えてもそのサッカーセンスは不変。ユナイテッド一筋24シーズン、13ものリーグ制覇を筆頭に、掲げたタイトルは実に34にも上った

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長身痩躯の体躯を生かした守備範囲の広いセービングに足下のスキルを兼ね備えた現代型GKの先駆エドウィン・ファン・デル・サールと、ウイングとしては鋭いドリブル突破からクロスやゴールで、セントラルMFとしては確かなプレービジョンと献身性でチームに貢献したライアン・ギグス。“赤い悪魔”の異名を持つマンチェスター・ユナイテッドのレジェンド2人が、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!

「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひ、ゲームにトライしてみてほしい。

<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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