UEFAヨーロッパリーグのラウンド16における最大のショックは、トッテナムの敗退だろう。
ホームでの第1レグを2-0で制していたスパーズは、3月18日の敵地での第2レグでまさかの敗戦を喫した。1-2で敗れた直近のノースロンドンダービーから大幅にメンバーを変更して試合に臨むも、この日のスパーズは足が重く、まったく良さを見せられないまま、クロアチア代表MFミスラフ・オルシッチにハットトリックを決められ、2戦合計2-3で敗退となった。
その試合、ディナモ・ザグレブのベンチには聞き覚えのない英国人の名前があった。それがU-21ウェールズ代表のMFロビー・バートン(21歳)だ。彼にとってトッテナム戦は、単なる大一番というわけではなかった。というのもバートンは、6歳からアーセナルの下部組織に所属していた元ガナーズなのだ。
アーセナルではチャンスをもらえず
アーセナルの下部組織で育ったバートンは、2018年にプロ契約を結ぶもトップチームでは一度もチャンスをもらえず、昨年2月にディナモ・ザグレブに完全移籍した。「アーセナルでは僕に何もプランが用意されていなかった」とバートンは英紙『Daily Mail』に語った。
そんな悩みを抱えている時、U-23チームを対象にしたプレミアリーグ・インターナショナルカップで対戦したディナモ・ザグレブに誘われたという。
「ディナモは僕のためのプランを用意し、ファーストチームでプレーするチャンスを約束してくれた」と、バートンは愛するアーセナルを離れ、何も知らないクロアチアを選んだ経緯を説明する。
まだレギュラー定着には至っていないが、今季はディナモの青いユニフォームを着てトップチームでも出場機会をもらえている。そんな中で“宿敵”のトッテナムとヨーロッパリーグで対戦することになったのだ。
勝ち進めば古巣との対戦も
当然、バートンはアーセナルが2-1で勝利した3月14日のノースロンドンダービーもTVで見たという。そしてすぐに、ユース時代のチームメイトであるエミール・スミス・ロウに連絡したそうだ。
「エミールがマン・オブ・ザ・マッチに選ばれて本当にうれしいよ。彼にメールを送り、月曜日には電話で話したんだ」
結局バートンはトッテナムとの試合は2戦とも出番がなかったが、チームは延長戦までもつれ込んだ第2戦を制してベスト8進出を決めた。
試合終了の笛が鳴り響くと、バートンは他の控え選手たちとともにピッチに駆け込んで大番狂わせを祝った。そして試合後、自信のSNSにこう書き込んだ。
「ロンドンは赤。クロアチアは青」
ディナモ・ザグレブは来月、準々決勝でビジャレアルと対戦する。ディナモがその試合に勝ち、アーセナルもスラビア・プラハ戦に勝利すれば、バートンは準決勝で愛する古巣と対戦することになる。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。