アーセナルのスペイン代表MFダニ・セバージョスは、確かなテクニックとパスセンスで攻撃を組み立てるスペイン人らしいプレーメイカーだが、熱くなることもしばしばだ。
熱さゆえにチームメイトと衝突も
今季開幕戦でベンチスタートとなった彼は、ハーフタイムのウォームアップ中に同じ控えのFWエディ・エンケティアと一触即発の口論になった。さらに11月には、練習中にダビド・ルイスとも揉めたという。セバージョスの激しいタックルにダビド・ルイスが激怒し、その時はパンチが飛んだとまで報じられた。それから12月のエバートン戦では、見逃してもらえたとはいえ背後から敵DFジェリー・ミナのふくらはぎを踏み付けた。
これだけを聞けば気性が荒い選手に思えるが、必ずしもそういうわけではない。セバージョスがチームメイトと衝突したり、激しいファウルをしたりしてしまうのは、彼が誰よりも強い情熱を持っているからだ。
2シーズン連続でレアル・マドリーからローン加入したセバージョスは、移籍の理由について「EURO2020と東京オリンピックを視野に入れて」と明かしたが、それだけではない。「2度目のローンが決まるまで、Rマドリーには1カ月待つように言われたが、僕は“マイクラブ”に戻ると決めていた。アルテタ監督の下で幸せだったからね」と、2度目のローン移籍の決め手を語っていた。
そんな彼のサッカーに向き合う姿勢を誰よりも評価するのがミケル・アルテタ監督だ。
先月のUEFAヨーロッパリーグ、ラウンド32ベンフィカ戦の第2レグで、セバージョスは致命的なミスを犯した。自分たちのCKの場面で下がっていたセバージョスは、クリアボールをヘディングでGKに戻そうとしてそれを拾われ、失点を導いてしまったのだ。結局チームは何とか逆転してベスト16に勝ち進んだが、試合後にセバージョスは矢面に立たされた。
ミスをしてもチームメイトが救ってくれる
OBのマーティン・キーオンには「ありえないヘディング」と酷評された。しかしアルテタ監督だけは試合後の会見で「セバージョスのためにも勝てて良かった」と同胞のMFを気遣い、理由を説明した。
「彼は人生でサッカーが一番大事という生き方をしている。彼のミスでチームが敗退していたら、精神的に非常に辛いものになっていただろう。こういう時こそチームメイトの存在が大事だ。チームメイトが彼を救ったのさ」
「セバージョスは毎ゴール、大喜びする。別にアーセナルと10年も契約を結んでいるわけではなく、ローン契約の選手に過ぎない。それでも全力でクラブのために戦う。こういう選手には良いことが起こるべきなんだ」
そのセバージョスは、3月11日のELラウンド16のオリンピアコス戦でも、自陣でのビルドアップ中にボールを奪われてそのまま失点した。だが、やはり今回もチームメイトが彼を助けてくれ、敵地での第1レグを3-1で勝つことができた。MFモハメド・エルネニーが強烈なミドルシュートでチームの3点目を奪った時には、得点したエルネニー以上に大きなガッツポーズをして喜びを表現した。
ミスをしたり、熱くなりすぎたりすることもあるが、これほど“サッカー愛”を前面に出す選手を、アーセナルファンは嫌いになれないはずだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。