【対談後編】西部謙司×tkq ――リセットされるジェフ千葉の1年、タイムリープは続く…
ジェフユナイテッド市原・千葉の2020シーズンを綴ったエッセイ『犬の生活 Jリーグ日記 ジェフ千葉のある日常』が2021年2月22日に発売。それを記念して著者であるジャーナリストの西部謙司氏とジェフサポーターのtkq氏に、それぞれの立場からこのクラブのディープな魅力を語り合ってもらった。
後編では、2年目のユン・ジョンファン体制の展望と、まるでサッカーのように先が読めなかったという書籍の制作秘話について。
妄想が膨らむ、ユン・ジョンファン2021
――そして2020シーズンからユン・ジョンファン監督体制となりました。1年目はどう評価しますか?
tkq「去年は特殊なシーズンでしたが、最終的に守備はある程度整ってきたところまでは来たと思いますね。ただ、その先どうするかというのがまったく見えてこなくて。攻撃面は前線にロングボール放り込む以外に何もなかったので。だから2021年はどうやって点を取りに行くかの部分が課題かなと」
西部「去年は言ってしまえば、キャンプで準備したものがすべてだったね。コロナの影響もかなりあったと思うし。もちろんそれは千葉だけに限った話ではないんですけど。練習がまともにできないから、積み上げができない。だからもう最初に用意したものでシーズン通すことしかできなかった。じゃあ今年はというと、こういう状況なのでキャンプも全然見れていないので、まったくわからないですね(笑)。予備知識なしというか、無の状態で開幕に臨むという感じです」
――じゃあWEBマガジンで千葉の記事を書くのは大変だったんじゃないですか。
西部「だからもうキャンプのことは書いてないですよ。もしかしたらこうなるんじゃないかという感じで」
――イタリアの移籍記事みたいに妄想を膨らませるわけですね(笑)。
西部「最初の会見の時にユン・ジョンファン監督が攻撃的な守備をやりたいと言っていたんです。去年は守備的な守備で、深く守ってボールを奪ってもそこから攻撃するのが難しいくらいの位置なので、守備から攻撃につながらない。攻撃的な守備というのは、それを変える宣言ですよね。じゃあどうするんだろう?ということで、そのコメントひとつで記事を書きました」
tkq「ハイプレスするということですか?」
西部「いや、そうじゃないです」
tkq「ああ、ミドルプレスで取ってということか。ハイプレスはできないですもんね、多分」
西部「そう、その説明を2話くらいに分けてやりました」
tkq「大変ですね(笑)」
西部「去年やってた低い位置のプレスと、ミドルプレスというのは構造的には同じなんですよ。同じ幅のものが後ろにあるか中間にあるかの差だけで。でもハーフウェイラインから前のプレスというのは、全然守備の体系が違うから、別のことになってしまうのでおそらくそこには手を出さないだろうと。もちろん部分的にはやると思いますが。攻撃的守備と言ってそこに踏み込んでしまうと、エスナイデルと一緒だから。やったらやったで見ものだけど(笑)」
tkq「ユンさんがエスナイデルみたいなサッカーをやったらどうなんだろうっていう(笑)」
西部「だったらエスナイデルで良かったんじゃないかという(笑)」
――ユン監督は現実主義者のイメージがあるじゃないですか。だから彼が来て、千葉が泥臭く守備から勝ち点を拾うようになれば面白いかなと思っていました。去年はコロナもあって難しいシーズンだったのでまだ何とも言えませんが、今年ハマれば昇格もあり得るんじゃないかと。
西部「昇格はちょっと……そこまで高望みはどうかとは思うけど」
――せめてシーズン前くらいは夢を見ましょうよ(笑)。(編注:本対談は開幕直前に実施)
西部「今ゾーンの[4-4-2]って、どこもちゃんとやるじゃないですか。だけど、千葉はきちんとやったことないんですよね。ミラーが来た時にゾーンディフェンスはちょっとやったけど、その時の選手は今もういないので。その後はちゃんとしたディフェンスの練習は見たことがない。やっているのかもしれないけど、試合を見た感じではやっているようには見えないんですよね。長谷部さんの時にちょっとやり始めたかなとは思ったんだけど、期間もそんなに長くなかったので。で、エスナイデルが来ちゃった(笑)。彼のサッカーは、もう前からバンバン当たりに行けっていうやつだから。そういう意味では普通のチームができている[4-4-2]の守備を一回どこかできちんとやる必要があった。だからこのタイミングでユン・ジョンファンが来たのは悪くないと思います。じゃあ結果が出るかと言うと、普通のことをやるだけだから、別にそれがすごいアドバンテージになるわけではない。いきなり強くなるとは思えないですね」
tkq「西部さんが言った通り、去年はキャンプでやっていた守備しかなかったので、内容としては近年まれに見るつまらなさだったんですね。本当にこれスタジアムにいても寝るんじゃないかという(笑)」
西部「競技としてのサッカーが好きな人には無理かもしれない」
tkq「全部蹴ってたじゃないですか、新井が。この2020年にこんなサッカーがあるかってぐらい蹴ってて」
西部「相手も同じようなタイプだと、もう塩の盛り合いみたいな試合になるっていう(笑)」
tkq「どこかがすごい蹴ってきて、ボールを持っていたら死ぬんじゃないかというくらいずっと蹴り合っている試合がありました(笑)」
西部「俺、それ本に“黒ひげ危機一髪”って書いたんだけど。3秒ボールを持ってたら爆発するんじゃないかっていう勢いで両方とも蹴ってた(笑)」
――西部さん、よくその1シーズンを本にしましたね……。
西部「読んでいただくとわかるんですけど、最後の方は戦評がどんどん短くなってきているんだよね」
tkq「読んでて8月までの文量と、それ以降の文量が同じという」
西部「そこからは同じことの繰り返しになってしまうので。本にも書いたけど、俺はたぶん8節くらいで諦めてる(笑)」
tkq「読んでて西部さん酷いなというか、諦めが早いなと思ったのは、ほんとに普通に10節いかないくらいで投げ出してますよね」
西部「これより良くはならないと見切った(笑)」
tkq「そう書いてあってマジで?って(笑)。凄い面白かった」
裏テーマは2020年、コロナ禍のサッカー
――(愚痴が止まらなくなってきたので)あのtkqさん、せっかくなのでこの本を読んだ感想をいただければ。……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。