新型コロナウイルス感染再拡大が続くブラジルと現在のサッカー事情
新型コロナウイルスの第2波により、感染拡大が止まらないブラジル。3月に入ってからは1日の死者数が最多記録を更新する勢いで、全国各州、各市ではロックダウンや商業活動の規制、外出規制などが行われている。
3月の繁華街はひっそり
リオデジャネイロ市でもレストランやバールの17時閉店や収容人数の40%という制限、海岸通りの軽食スタンドの営業休止などの規制が再スタートし、取り締まりも徹底されている。
その1週間前には、フラメンゴのブラジル全国選手権逆転優勝によって多くのサポーターが街に繰り出したばかりだった。サポーターもパンデミックの中で我慢を重ねており、最後の2節は歓喜で羽目を外してしまったのだが、3月6日、7日の週末は、リオ州選手権が行われたものの、バールの立ち並ぶ通りはひっそりと静まり返っていた。
サッカーへの影響も大きい。すでに報道されている通り、3月下旬に行われるはずだった2022年W杯南米予選の2節分が延期となった。
代表での活動後、所属クラブの国に帰った際に隔離などが適用される場合、クラブが選手の招集を拒否できるという措置をFIFAが取ったことが発端だ。
イングランドでは、ブラジルやアルゼンチンなどから戻った選手は10日間の隔離が必要とされているため、リバプールやマンチェスター・シティから招集拒否の話が出ていた。
ブラジルにとっては、リバプールのアリソン、フィルミーノ、ファビーニョ、マンチェスターCのガブリエウ・ジェズス、エデルソンという多数の主力を欠くことを意味する。
急造チーム形成は不要に
延期決定の前には、南米サッカー連盟と予選参加10カ国のサッカー連盟代表者がオンラインで会議を持った。そこでは南米大陸でプレーする選手だけでチームを構成する案も出たが、それによる影響の大きいブラジルをはじめとする国々が、強固に反対したという。
結局、各代表が望む招集ができない中で予選を行うべきではない、という観点から延期が決まった。この2節の代替日程は、9月、10月の国際Aマッチデーで、従来なら2節の予定を3節ずつ行うという案が検討されている。
今年に入り、チッチ監督をはじめ代表の技術スタッフたちが国内での公式戦を精力的に視察してはいたが、昨年の予選の際も国内組が5人もいなかったブラジルとしては、まったく違ったチームを急造する必要がなくなった。
それ以前に、3月26日に予定されていたバランキージャでのコロンビアvsブラジル戦に向けて、コロンビアの保健相からは「ブラジルからの航空機は、たとえチャーター機であっても受け入れを拒否する」という見解も出ていた。
3月30日にブラジルvsアルゼンチンの大一番を迎える予定だったペルナンブーコ州レシフェでは「延期されたことで、たとえ人数制限があっても観客を迎えられる可能性が出てきたのだから、ポジティブな決定だ」と州サッカー連盟会長がコメントしている。
カレンダーの立て込む中、新たな問題も出て来るだろうが、今はパンデミックの終息を願いながら、できる準備を進めていくしかない。
サッカーの試合開催の是非
国内でも、感染拡大はサッカーに影響を及ぼしている。コリンチャンスでは、3月2日からの4日間で合計14人の選手の感染が確認された。
サンタカタリーナ州では、2月24日に開幕した州選手権が15日間の中断に入った。州全体で集中治療室の病床占有率が99%を超え、患者を他の州に移送する事態となっている中、州都フロリアノーポリスを含む4市が試合の禁止を発表したのだ。
アメリカ・ミネイロのリスカ監督は、開幕間近のコパ・ド・ブラジルの延期を訴えた。トーナメント制のこの大会は、全国80チームでスタートする。
「信じられない状況だ。3月10日と17日の試合のために80ものクラブが、選手を含む30人のチームで国中を行き来するなんて。病院に空きはない。僕も友達を亡くしている。もう時間がない。命を守る時が来ているんだ!」
グレミオのヘナト・ガウショ監督は、オンライン会見でサッカーの継続について聞かれてこう答えていた。
「100%ではないにしても、今、サッカーはより安全な場所の1つだ。我われは3日や2日に1度、PCR検査を受けている。誰かに症状が出たら、すぐに隔離されて自宅療養だ。グレミオの医療チームは優秀で、全員が非常に良くケアされている」
「商店などが閉まっている中で、サッカーが行われていることを批判する人も多い。でも、我われがやっていることは国民のためにもなるんだ。我われがサッカーをしている時は、サポーターを(テレビ観戦のために)家にいさせる手助けしているんだから」
普段は歯に衣着せぬ物言いで有名な彼が、言葉を選びながら慎重に語る様子には、新型コロナについて考えをまとめることの難しさがにじみ出ていた。
そのグレミオが出場しているリオグランデ・ド・スル州選手権では、キックオフを20時以降に変更する措置が執られている。州政府による要請で、サポーターが集まりやすい時間を避けるためだ。
昨年の3月下旬、パンデミック第一波に備えて最初にサッカーが中断されて以来、6、7月にサッカーが戻り、ガイドラインの遵守、無観客、取材規制、クラスター、試合延期、経営難など、様々な問題が起こり、様々な努力の積み重ねで1年が過ぎた。それでもなお、コロナ禍でのサッカーは手探りをしながら進められている。
Photos: Lucas Figueiredo/CBF, Rafael Ribeiro/CBF, LUCAS UEBEL/GREMIO FBPA
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。