【開幕特集】FC東京のニューヒーロー。波多野豪が見据えるリーグ優勝とMVP
DAZNとパートナーメディアで構成する「DAZN Jリーグ推進委員会」が2021シーズンの開幕を告げる特別企画。昨シーズン、出場機会をつかみ、大きな経験を積んだFC東京・波多野豪。FC東京のニューヒーロー候補である彼は今シーズン、どのような姿を見せてくれるだろうか。
絶対にリーグタイトルを獲る。見ていてください
この男が言うと、いったいどこまで本気なのかわからない。沖縄キャンプ中のオンライン取材で、22歳のGK波多野豪はきっぱりと言った。
「リーグタイトルを獲れば、MVPも見えてくる」
チームきってのムードメイカー。ライバルチームのファン・サポーターからは、ベンチからひときわ大声でチームメイトを叱咤激励する姿が印象に残っているかもしれない。
しかし、波多野の表情は真剣そのもの。今年1月にルヴァンカップを制したFC東京にとって、念願のリーグ優勝は今季のミッション。それを成し遂げられれば、守護神がMVPに輝く可能性もある。考えてみれば、林彰洋が長期離脱中の今、波多野にその栄誉がめぐってきてもおかしくないのだ。
2019シーズンまでFC東京U-23の一員としてJ3が主戦場だった198cmの若者にトップチームでの出番が回ってきたのは、林彰洋が不調に陥った昨年の夏だった。8月9日のセレッソ大阪戦から3試合連続してピッチに立ち、ベンチの時と同じくらい大きな声で味方に指示を飛ばした。
その後、ポジションを奪い返されたものの、シーズン終盤に林が右膝前十字靭帯損傷の大ケガを負ったため、再びゴールマウスに立った。中でも貴重な経験となったのが、11~12月にかけてカタールのドーハで行なわれたAFCチャンピオンズリーグへの出場である。上海申花、蔚山現代、パース・グローリー、北京国安とのしびれるような試合を経験し、ラウンド16では1点に泣く悔しさを味わった。このシーズン、波多野が手に入れたものは少なくない。
「開幕からサブとしてベンチに入り、デビューしたり、試合に出られない時期が続いたりしたけど、無失点に抑えられる試合も増えて手ごたえをつかんだ。ACLでもシュートストップなど自分の良いところをたくさん出せて自信になりましたね」
この活躍により、遠ざかりつつあった東京五輪出場のチャンスが再び芽生えてきた。チーム立ち上げ当初は常連メンバーだったが、大迫敬介をはじめ年下のGKが台頭してきたため、声がかからない時期もあった。
だが、コロナ禍によって約1年ぶりの活動となった20年12月の千葉合宿に招集され、川口能活GKコーチから細かくアドバイスを受けた。
「能活さんには『癖で先に倒れることがよくある。そういうところを直していけば、相手はシュートを外してくれる。シュートを外させることもGKの実力のうちだ』と言ってもらった。先に動かないとか、ボールを見てから動くとか、当たり前のことだけど、あらためて指摘されて気づけたと思う」
198cmと日本人の中では図抜けた身長の持ち主だが、「大きな選手に対してもクロスで競り負けないようにするために、体を大きくしている」と、筋力トレーニングに励み、食事の量も増やしているという。それも世界との対戦を見据えているからだ。
「22年間、東京に住んでいて、たくさんの人に『絶対に出てくれ』と期待してもらっている。その期待に応えたいし、日本代表として五輪に絶対に出たいと小さい頃から思っていたので、そこに懸ける思いは人一倍強い。ここからの7カ月、挑みたいと思う」
一方、まだまだミスが多いのは、シーズンを通してゴールを守る上で早急に克服すべき課題だろう。1月4日に行なわれたルヴァンカップ決勝の柏レイソル戦でもクリアミスから同点ゴールを許してしまった。
長谷川健太監督からも「波多野のミス以外は、すべてうまくいった」と言われてしまったこの場面、たしかに相手選手に体を預けられ、クリアが難しい場面だったが、波多野は自身に矢印を向け、精進を誓った。
「あの失点によって自分の責任感がより強いものになった。ペナルティエリアは戦場。もっと強気でいきたいと思います」
オンライン取材中に茶々を入れてきた先輩に対し、これまた真剣な表情で「辞めてください。真面目に取材を受けているんですから」と答えた波多野は、最後にもう一度きっぱりと言った。
「今年は優勝します。絶対にリーグタイトルを獲る。見ていてください」
念願のリーグ優勝を狙うFC東京のニューヒーロー――。今シーズンの波多野豪は、おちゃらけたイメージを払拭し、ひと味違う姿を見せてくれるに違いない。
Photo:Getty Images
Profile
飯尾 篤史
大学卒業後、編集プロダクションを経て、『週刊サッカーダイジェスト』の編集記者に。2012年からフリーランスに転身し、W杯やオリンピックをはじめ、国内外のサッカーシーンを中心に精力的な取材活動を続けている。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』などがある。