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ゴール裏に入って応援してこい!『サカつく』担当者が語る開発秘話

2021.02.24

この記事は『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』の提供でお届けします。

サッカークラブ経営シミュレーションゲーム『プロサッカークラブをつくろう!』が2021年2月に25周年を迎えた。『サカつく』の通称で多くのファンに愛され続けている本作の歴史を紐解くべく、セガ社の『サカつく』担当者にお集まりいただき、ゲーム誕生の経緯から仕様変更の背景、今後の展開などについて話を聞いた。

【参加者】
宮﨑 伸周(サカつくRTWプロデューサー)
久井 克也(サカつくPSP版プランナー/開発ディレクター)
武内 貞一郎(サカつくRTWプランナー)
木村 晋也(サカつくRTWディレクター)

サポーター文化に魅了されました

――『サカつく』シリーズ25周年、おめでとうございます。まずはこのゲームが誕生した経緯を教えてください。

宮崎「第1作目が発売されたのが1996年。当時を知る先輩に話を伺ったところ、まず1993年に開幕したJリーグが大流行していたという背景があります。一方でファン・サポーターはJリーグクラブがどのような経営をしていて、どんな選手が在籍しているかをあまり把握していなかった。そこに着目して開発されたのが『サカつく』だと聞いています」

久井「当時はまだサッカーを詳しく知る人が少なかったので、選手の情報や経営についても曖昧にできる……と言うと少し語弊があるかもしれませんが、ゲーム的に“遊び”を入れられる環境があったようです」

――確かに『サカつく』はリアルと遊びのバランスが絶妙です。ゲーム内でライバルクラブの社長として登場する「油野茂一」などはその典型だと思います。

木村「言わずもがなですが、当時チェルシーを買収したアブラモビッチさんが選手以上に目立っていて、(油野茂一は)そこから着想を得たキャラクター。『サカつく』らしい設定ですよね」

油野茂一のモデルとなったアブラモビッチ

久井「『サカつく』の世界観を語る上でリアルを追求し過ぎるのではなく、現実世界で起きている出来事を少しデフォルメしてネタ的に取り入れるのは特徴としてあります」

――2009年に発売された第6作目となる『J.LEAGUE プロサッカークラブを作ろう!6 Pride of J』ではクラブの発展だけではなく、「ホームタウンの成長」を求められる設定が拡大しました。リアルと遊びのバランスに加えて、開発側の“思想”がゲームに深みを与えました。

宮崎「試合に勝つだけではなく、スタジアムにお客さんを集めることも資金獲得の上で重要な要素ですが、そこにはホームタウンの文化や経済の発展も関係してきます。クラブだけではなく、ステークホルダーとともに成長していくことが結果的に好循環を生むということをゲームで表現する。そういうコンセプトが開発の背景にあったのは事実ですね」

――この6作目では、定義が難しい「サポーター」を3階層(一般観客・サポーター・コアサポーター)に分けてプロモーションを検討実施したり、「サポーターカンファレンス」が重要視されていたりします。こういう設定は何を参考にされているのですか?

宮崎「実はこれ、久井がJリーグを実体験して作った部分なんです」

久井「当時、新人だった私はJリーグやサッカーの知識がほぼありませんでした。『龍が如く』に関わりたいなと思っていたら『お前はサカつくを作れ』と言われて(笑)。まったくイメージが湧かない私を見かねた先輩から『ゴール裏に入って応援してこい』とJリーグクラブのサポーターを紹介されまして」

――どのクラブのゴール裏に行かれたのですか?

久井「最初はマリノスです。ゴール裏で歌い飛び跳ねることから始まって、横断幕を張ったり、チラシを配ったりもしました。そういう経験の中で『一概にサポーターといっても様々な人がいるな』と気が付いて。現場で厳しくも熱いサポーターの意見を聞くうちにサポーターカンファレンスを含め、ゲームの骨格がまとまっていきました」

ゴール裏のサポーターと過ごした時間を参考に『サカつく』の仕様が検討された

――いきなりゴール裏からJリーグを経験するというのはハードルが高い印象もあります。

久井「初めてゴール裏にお邪魔した際、コールリーダーに『セガの久井です』と挨拶したら『セガとか肩書はどうでもいいから。今日は頑張ろうぜ』と肩を組まれて、その腕を見たらタトゥーが入っていて最初は怖かった(笑)。けど、試合中の応援や様々な活動を通じてクラブに対して熱い想いを持たれていることを知れたのは仕事に活きましたね」

久井克也氏(サカつくPSP版プランナー/開発ディレクター)

――マリノスの他に印象的なクラブはありましたか?

久井「川崎フロンターレです。サポーターがクラブのプロモーション活動をすごく助けていた姿をよく覚えています。また、サポーターからクラブに企画を提案するケースも多かったです。フロンターレでの経験はプレイヤーがプロモーション活動を頑張ってサポーターを増やすことでクラブの資金集めにつながるというゲームの設定にも繋がっています。個人的にはサッカーという競技以上に、サポーター文化に魅了されました」

――そうした久井さんのフィールドワークが昨年実施されたプロモーション『リアルサカつく』にも繋がっていくのですね。

宮崎「(リアルサカつくは)お客さんにPRするというよりも、お客さんを“作り出す”というコンセプトで実施したプロモーションです。カジュアルな形でゲームの中身を伝えるよりも、サッカークラブ経営の知見を深める機会を提供することが結果的にゲームのプロモーションにおいても効果的ではないかと考えました。久井が話していた通り、現場を知ることでサッカーの楽しみ方が広がっていけば『サカつく』をよりいっそう楽しめる。まあ、遠回りなやり方かもしれませんが(笑)」

――『サカつく』担当者のみなさんがサッカークラブ経営に詳しくなられることで、ゲームの難易度が上がるのではないかと心配です(笑)。

宮崎「実情に合わせて『サカつく』を作ったら資金集めはかなり大変なゲームになるでしょうね(笑)。でも、例えば「本気モード」として、リアルに近い難易度設定があってもいいと思っています。そうすれば筋金入りのシミュレーションゲームになれる。さじ加減は難しいですけどね。現実では辛いことをゲームでは面白く体験できる……そういう視点は持って今後も開発していこうと思っています」

――Jリーグが行っている『シャレン』(社会連携)などがわかりやすい事例ですが、サッカークラブの在り方として“勝つ”“稼ぐ”以外の活動も評価される時代になりつつあると感じています。そうした時代背景を受けて、『サカつく』で新しいゴール設定が設けるということはありませんか?

宮崎「『リアルサカつく』などを通じていろんなクラブの方と話をする中で、地域に密着した社会貢献活動の伸びしろは強く感じている部分です。そうした社会トレンドとゲームの面白さのバランスが取れるのであれば検討したいポイントですね。ゲームを通じて『シャレン』などリアルの活動をプロモーションするのは『サカつく』だからこそできる貢献かなとも思います。どこまでできるかわかりませんが、日本サッカーとともに『サカつく』も歩いていければいいですね」

宮﨑伸周氏(サカつくRTWプロデューサー)

ゲームを入口にサッカーへの関心を高める

――ここまで主に経営面にフォーカスして話をお聞きしてきましたが、『サカつく』はオン・ザ・ピッチにおいても最新トレンドが反映されています。最近の例ですと、チームの戦術に合わせて特定ポジションの選手能力が高まる「レーン機能」が追加実装されました。これは「5レーン理論」が話題になったことを踏まえてのことですよね?

武内「その通りです。リアルの戦術トレンドを参考にしつつも、ゲームの爽快感が失われないバランスを意識して新機能は実装しています。あとは、トレンドだけではなく過去の有名な戦術も取り入れていることもポイントです。例えば「トータルフットボール」の衝撃をオランダトリオ(マルコ・ファン・バステン、フランク・ライカールト、ルート・フリット)とともに知ってもらうとか。ゲームを入口にリアルのサッカーや戦術に興味をもってもらえればうれしいです」

武内貞一郎氏(サカつくRTWプランナー)

木村「そうしたレジェンド選手の特徴は“光プレー”という形で再現しています。若い人にとっては発見ですが、昔からサッカーを見ている人にとっても『こういう選手いたよね』と懐かしむ楽しみ方をしてもらえるのではないかと思っています。例えば『マラドーナの5人抜き』などファンの認知度が高いプレーで(光プレーを)設定することが多いですね」

サカつくではお馴染みの「光プレー」

久井「社内の『サカつく』好きにテストプレーしてもらうと『この選手、誰?』とよく聞かれます。知らないくせにスタメンにはバッチリ入れている(笑)。ゲームを通じて選手や戦術への関心に寄与していくこともこのゲームの意義だと思います」

宮崎「『サカつく』が、長い観戦歴のあるコアなサッカーファンとライトなサッカーファンが交流するきっかけになればいいとも思っています。『この戦術、何?』『この選手、誰?』という問いに『それはね……』と会話が始まるイメージです」

武内「戦術の流行はゲーム内に反映させます。ただ、ゲーム的な遊びを成立させるために特定の戦術だけが強いということにはしていません。あと、ポジショナルプレーもそうなのですが、戦術が複雑になってきていて、ゲーム内で完全に再現する難しさがあります」

――選手の個人能力に関してはいかがでしょうか? 過去、日本サッカー界では代表監督が代わるタイミングで「デュエル」や「ポリバレント」など“流行語”が誕生してきましたが、ゲーム内ではどのように設定されていましたか?

武内「日本代表に選出されている選手や、ワールドカップなどで認知度が上がった選手には高い能力値を設定することはあります。ユーザーが使ってみたい特徴を際立たせることを心がけていました。ただ、選手の個人能力に関しても戦術と同様にチーム、対戦相手との相性次第で、デュエルが強い選手が活躍できる試合もあれば、そうではない試合もあります。リアルでも監督交代によって急に活躍する選手や(活躍)しない選手は出てきますので」

『サカつく』の今後

――セガサターン、ドリームキャスト、プレイステーション、ニンテンドーDS……『サカつく』は対応機種を変えながら進化してきました。そして、最新シリーズ『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』はスマホゲームです。

宮崎「コンシューマーゲームとは違いますね。大きな違いとして、スマホゲームは移動時間やご飯を待つ時間など隙間時間でプレーする方が多いことがあります。ゆえにゲームの進行スピードも早めに設定しています。お客様の声を聞いて常に最適化を図っています」

武内「あと、スマホゲームになったことでお客様の層はカジュアルになったと思います。担当者としてはコアなサッカーファンに『わかってるじゃん』と言われたい希望もあるのですが(笑)、ゲームでしかサッカーに触れない方にも楽しんでもらえることを心がけています」

――以前、宮崎さんは「近年のサカつくはお客様との対話型で開発している」と話されていました。

宮崎「長く開発に関わると私自身の目線がヘビーユーザー寄りになってしまうので、そこを是正する意味でもお客様の声は大切にしています。SNSやYouTubeを通じて様々な(お客様の)声を聞けることで『サカつく』を俯瞰的に見ることができますし、冷静にアップデートできています」

YouTube番組を通じてお客様の声を聞き、参考にしている

木村「お客様からの要望で追加した機能はいくつかあります。例えば、『ユーザー同士で対戦したい』という要望に対して“ルームマッチ”という、簡易的に大会ができる機能を実装しています。ゲーム内で相互フォローしている関係を“フレンド”と呼んでいるのですが、そのフレンド同士での対戦機能も付随して入れました。お客様が普段使っている戦術やシステムが有効なのかを確かめる機会へのニーズは高いですね」

――『SWCC』(SUPER CLUB WORLD CUP)という形で『サカつく』ではユーザーを集めた大会を開催されています。セガ社では『ぷよぷよ』がeスポーツタイトルとして大規模にイベントなどを展開されている前例がありますが、同様の展開は検討されていますか?

木村「検討はしています。『SWCC』で何度も上位に進出している方を集めて大きなリアル(オフライン)イベントを開催するとか。コロナ禍で難しい状況にはなってしまっているのですが、実現に向けてチーム内で議論は続けています」

木村晋也氏(サカつくRTWディレクター)

――では、最後に皆様から一言ずつメッセージをいただけますか?

久井「25周年を迎えて、日本のサッカーファンの中では『サカつく』という言葉が一般的にも通じるようになっているのはすごくうれしいことです。一方で世界での認知度はまだまだ低い状況です。サッカーは世界中で楽しまれているスポーツなので、『サカつく』も世界の人々にもっと届けていけるように頑張りたいです」

木村「先ほども述べましたが『サカつく』はお客様との対話を重要視しているので、これからもお客様にとって最適なものは何かを考えながら開発できればと思っています。久井も話した通り、サッカーは世界共通の言語。日本だけではなく、世界でどのようなゲームが受け入れられるのを考えることが『サカつく』のさらなる発展に繋がると思っています」

武内「リアルな部分とゲームとして面白い部分、そのバランスが『サカつく』の魅力だと思っているので、サッカーに興味をもってもらう入口として多くの人に遊んでもらえるゲームとなって、日本のサッカー文化の発展の一助になれればと考えています」

宮崎「今回のインタビューを通じて『サカつく』はサッカーゲームですが、サッカーに付随する“創る”楽しみも届けたいのだと再認識しました。25周年を迎えますが、今後もこの考えは受け継いでいって、より理想のコンテンツを開発し、引き続き多くの方に楽しんでいただければ幸いです。本日はどうもありがとうございました」

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<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス

さらに詳しい情報を知りたい方は公式HPへアクセス!
http://sakatsuku-rtw.sega.com/

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サカつくRTWビジネス育成

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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