SPECIAL

筑波大学蹴球部データ班が分析。高嶺朋樹の強みとコンサドーレ札幌で求められる役割

2021.02.24

2020年に筑波大学を卒業し、ユース時代まで所属していた北海道コンサドーレ札幌にカムバックを果たした高嶺朋樹。昨シーズンは大学時代の同期である三笘薫が川崎フロンターレでブレイクし注目を集めたが、高嶺もルーキーながら公式戦に途中出場を含め30試合出場し、中盤の戦力として頭角を現している。また、昨年の12月にはU23の代表合宿に初招集されるなど、成長が著しい選手の一人でもある。そんな札幌の新たな司令塔の凄みはどこにあるのか、2021シーズンの札幌に何をもたらすのか。筑波大学蹴球部・パフォーマンスチームデータ班に所属する内田郁真氏に高嶺の昨年のデータを用いて明らかにしてもらった。

ペトロヴィッチ監督の超攻撃的サッカーに見る魅力と危うさ

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が2018シーズンに就任し、今年で4シーズン目となる。毎年細かな戦術的変化が加わるものの、基本的なスタイルに大きな変化はなく超攻撃型のスタイルを貫く。高嶺個人の分析をする前に、チームの特徴をデータ面から紐解きたい。まず、シュート本数およびゴール期待値(xG)の変数を用いて2020シーズンの全チームと、2015シーズンから2017シーズンの札幌の平均値、および2018シーズンから2020シーズンの札幌の平均値を比較する。

 特筆すべきは、ペトロヴィッチ監督就任後の2018年から、攻撃力に大幅な上昇が見られることがわかる。2020シーズンは就任後平均と比較し低下しているが、それでもJリーグの平均を上回り、彼が札幌にもたらした攻撃力はチームにとって大きな武器となり機能している事が示唆される。

 札幌の基本的フォーメーションは[3-4-2-1]であるが、攻撃時はアンカー役の中盤が1人最終ラインへと下がることで4バックを形成し、 ウイングバック(WB)はウイングの位置まで上がることでCF + 2シャドー + 2ウイングの5枚が前線に移動する。この[4-1-5]システムを攻撃時に取ることで、前線に大きな厚みをもたらすことができる。ペトロヴィッチ監督はポゼッションサッカーを嗜好し、これまでに数多のパターンの攻撃を繰り出してきた。この守から攻に移る際のシームレスな配置変化、および魅力的なポゼッションサッカーが高い攻撃力を生み出す原動力だ。この攻撃力は昨シーズンのJ1覇者川崎フロンターレをも打ち破るポテンシャルを秘めている。ただ、昨シーズンに関しては鈴木武蔵の移籍もあり、決定力に課題が残った。実際にゴール期待値はJ1で6位ながらゴール数は47で8位と、やや期待値を下回る結果に終わっている。

https://www.youtube.com/watch?v=V3y0egoraWQ

 守備面においては課題が残った。昨シーズンの札幌はマンマークを採用しており、これは一昨季途中から導入されたGKのゴールキックのルール変更に伴いGKを含めたビルドアップを行うチームが増えたことなどが背景として考えられるが、マンマーク守備に変更し、相手のパスコースを消しながらプレスをかける方針は理にかなっている。一方で、マンマークの特徴として守備時の1対1で負けた際に対応が後手に回り、失点のリスクが大きくなる点が挙げられる。また何より、攻撃に多くのリソースを割いているがゆえに、攻から守の局面に脆弱性が現れる。ボールロスト時に前線からのプレスがハマらないと、簡単に相手にボールを運ばれてしまう。昨シーズン、札幌が対戦相手のカウンターからシュートまで運ばれた回数は1試合あたり1.44回。これはJ1でワーストであり、ネガティブトランジションを含めた守備の改善は不可欠である。

 これらの状況を鑑みると、チームの抱える守備の問題に適切に対処し、なおかつペトロヴィッチ式の攻撃のアクセントとなるために、中盤の選手には以下の要素が必要であると考えられる。

 ・ボール奪取のスペシャリストであること

 ・ピッチの広範囲をカバーできるだけの走力を持ち合わせていること

 前者に関しては、攻守、特にトランジションにおける高いインテンシティが求められる札幌においては必須の資質と言える。後者については、両WBの激しい上下動により空洞化してしまいがちな中盤をカバーするために欠かせない。こうした点を踏まえて、高嶺個人のパフォーマンスの分析へと移っていこう。 

高嶺が示すピッチでの違い

高嶺がピッチにおいて持っている強みを列挙するならば、以下の2点が考えられる。……

残り:2,851文字/全文:4,695文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

コンサドーレ札幌

Profile

内田 郁真

1998年2月生まれ、広島県出身。筑波大学大学院に所属しサッカーと画像情報の研究に従事。部員数は10人という絆深い超田舎高校サッカー部を経て、部員数150人超の筑波大学蹴球部へ。2020シーズンまでトップチーム専属データアナリストと、同部データ班の班長を兼任。スポーツデータアナリストとしてスポーツ界に貢献する事が目標。好きな選手はオリバー・カーンと楢崎正剛。B’zのライブに参戦する事が人生のモチベーション。Twitter id: @ikuma_uchida18

RANKING

TAG