UEFA-Aライセンスを持つ浜野裕樹に聞く、進化を続けるドイツの監督ライセンス事情
ハンジ・フリック、トーマス・トゥヘル、ユリアン・ナーゲルスマン――昨季のCLベスト4のうち3人はドイツ人監督だった。そのうちトゥヘルとナーゲルスマンはトップレベルでのプロ選手経験を持たない指導者だ。近年のドイツでは「ラップトップ監督」と呼ばれる彼らのようなキャリアパスが増加傾向にある。ヨーロッパでも先鋭的なドイツの指導者養成システムはどうなっているのか? ドイツに根を下ろしUEFA-Aライセンスまで取得した33歳の新鋭、浜野裕樹氏にドイツのライセンス事情や指導者養成のコンセプトを聞いた。
ドイツで監督ライセンスを取得するルート
――まずはドイツのライセンス事情について教えていただいてもよろしいでしょうか?
「ドイツの指導者ライセンスの種類としては、C級から始まりB級、エリートB級、A級、そして1番上にS級と5段階のレベル構成になります。ピラミッドをイメージしていただくとわかりやすいですね。日本の指導者ライセンス制度とそこまで大きな違いはないです。エリートB級というのは、JFAにおけるA級U-12やU-15の位置付けになります。また、S級はサッカーの先生を意味する『フスバルレーラー』とも呼ばれています。C級の下にもキッズリーダーやD級などいろいろと種類がありますが、ライセンスという枠組みにあたるのはC~S級までになります」
――ドイツの監督ライセンスは、イコールUEFAライセンスという理解でよろしいでしょうか?
「はい。昔ドイツではC、B、A、S級の4階級だったのですが、UEFAライセンスと互換性を持たせるためにA級とB級の間にエリートB級が置かれました。それからはC級=UEFA-C、B級とエリートB級=UEFA-B、A級=UEFA-A、S級=UEFA PROと、それぞれ完全に対応するように設定されています。例えば僕は現在ドイツのA級まで持っているので、UEFA-Aライセンスを取得していることになります」
――浜野さんはどのような流れでA級まで取得されたのでしょうか?
「まず2013年12月、ケルン体育大学在学中に一番下のC級ライセンスを取りました。そして2017年にエリートB級、2019年にA級を取りました。日本もドイツも、ライセンスを取得した後は必ず1年間指導者としての経験を積まなくてはいけません。なので、B級を取った翌月にA級を受けるといったことは不可能です。また、飛び級も基本的にはありません。試験には次の階級に進める最低ラインの点数が定められているので、低い点で合格した人はやり直しになってしまいます。僕は運良く、今まで落第せずに進むことができました。つまり、試験で良い成績を取った上で1年間指導者として現場で働いたら、次の階級の試験を受けられるということです。それを繰り返して、どんどんステップアップしていくという流れですね」
――ライセンスを取得するための講習会は、どのような内容になるのでしょうか?
「ドイツでは基本的に、C級とB級は地域のサッカー協会が統括しているライセンスになります。ですから、その2種類はオンラインで申し込みをして各地で受講することができます。講習会も地域の協会の指導者養成部門の人が指導を担当します。エリートB級から上はドイツサッカー協会の管轄になるので、協会の指導者養成部門の人が講習を実施します。また、日本と違って推薦書を準備する必要はなく、国籍なども関係ありません。申し込みが開始されるタイミングで資料をそろえて手続きをすれば、希望の開催地で講習を受けられます。また、希望の開催地が定員オーバーになってもドイツ中の開催地を探せば講習会を受けることは可能です。良い成績を取れて1年間指導者としての実績を証明する書類があれば、とんとんとA級までは進める仕組みです。ただしS級は別で、受けるにはA級の資格を保持した上でさらに追加で条件を満たす必要があります。現状では『U-17またはU-19ブンデスリーガの監督を1年やること』『3部以上のクラブでアシスタントコーチを1年やること』『6部以上のリーグの成人チームで監督を1年やること』『スポーツ科学の大学を卒業しドイツサッカー協会公認アカデミークラブでフルタイムのジョブとして1年働くこと』『地域トレセンの責任者として働くこと』『2部以上のリーグの女子チームで監督を1年やること』の6つの条件のうち、1つを満たしていればS級の選抜試験を受ける資格があることになります。そして毎年集まった候補者の中から選ばれた24人が1年間S級の講習を受ける、という流れになります。もちろんそれらの条件に合わせて、健康状態が良好であることや犯罪歴がないこと、高校までの成績証明書や指導者としての履歴書なども必要です。要するに、ドイツでは今までの自分の実績の証明ができて選抜試験で良い成績を残すことができれば、S級ライセンスが取れるということです」
――ライセンス講習の受講料が高いという話を聞いたことがありますが、費用や期間は実際どんな感じですか?
「確かに受講料は高いと言えば高いです。ただ、僕が知る話では例えばクラブが将来監督をやってもらいたい人材が講習に参加するので、クラブが払ってくれるケースもありますね。期間は、C級(現在はB級)が1週間×3回プラス試験が3日間。1番低い階級なので、まずは時間をかけてしっかり教え込むという感じです。エリートB級が1週間×2回プラス試験3日間、A級も1週間×2回プラス試験3日間ほどですね。A級やエリートB級は、講義のある週が終了してから次の講義が実施されるまでの期間も長めに空けられていました。その中で受講生はたくさんの課題に取り組まなくてはいけません。例えば、自分のチームの練習をいろいろな角度から撮影した映像をドイツサッカー協会の人に送って、練習のコンセプトや自分のコーチングテーマについて説明するというものがありました。それを協会の人がオンラインプラットフォームで採点する、という形で課題は進められます」
――近年のドイツの指導者育成のコンセプトはどういう感じでしょうか? 浜野さんが実際にライセンス講習会に参加した感想も含めて教えてください。……
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Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。