2021年は元日からリーグ戦8試合を6勝1分1敗。第24節を終えて12勝6分6敗で、2位と勝ち点4差の5位。“ビッグ6”勢も安定性を欠く今季プレミアで、現在レスターとともに昨季王者リバプール(6位)の上に陣取るのが、ウェストハムである。そのチームを率いてリーグ年間最優秀監督の候補にも挙げられる指揮官が、あのマンチェスター・ユナイテッド時代から7年、一度は地に落ちたイメージを2度目の任地、東ロンドンで回復させつつある57歳のスコットランド人、デイビッド・モイーズだ。
今季プレミアリーグの月間最優秀監督賞ノミネートは、1月がすでに3度目。その人物が年間最優秀監督の候補と目されるのは、あり得る話だ。ただし、その監督がデイビッド・モイーズと聞けば、あり得ないと言いたくなる者もいるだろう。だが、昨季後半からウェストハムで指揮を執るモイーズは、監督としての復権を遂げつつある。またしても残留争いに巻き込まれたチームの立て直しが進む中、自身はすでに本来の姿を取り戻したとする向きもある。
その姿とは、エバートン時代のモイーズ像だ。2002年3月から2013年5月まで率いていた古豪で、骨のある戦う集団を作り上げ、トップ6フィニッシュは04-05シーズンの4位を含む5回、トップ10は9回という実績を残した監督像。当時、マンチェスター・ユナイテッドによる引き抜きに際しては、抜擢されるだけの資格はあるとの見方が一般的だった。しかし、エバートンでの11年間で築いた評判は、ユナイテッドでの開幕8カ月間で地に落ちた。6年契約を1年未満で打ち切られ、強豪監督の「有望株」というイメージは崩壊。続くレアル・ソシエダでのラ・リーガ挑戦(14-15)と、サンダーランドでのプレミア復帰(16-17)がともに1年限りで終わる頃には、降格候補での「繋ぎ役」が精一杯という見方をされていた。……
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山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。