2018年夏にBチーム(U-23)のセリエC(3部相当)参戦を決断して以降、ユベントスは「トップチームと育成を切り離す」というユニークな戦略を採用している。5大リーグのレギュラークラスを育てて売る――その結果アカデミーは不採算部門からお金を生む部門へと変貌を遂げた。新常識を作った育成機関の構造とメソッドに迫る。
ユベントスは、イタリアにおいて育成に関して最も自覚的かつ先進的な取り組みを進めているクラブである。
それを端的に示しているのが、現時点において唯一、BチームであるU-23をセリエCに登録し運用しているという事実。セリエA有力クラブBチームのプロリーグ登録は、イタリアにおけるエリート育成強化における最重要課題として、長年にわたってその実現が望まれてきた。しかし実際に2018-19シーズンからスタートしてみると、Bチームを編成して参戦に踏み切ったのはユベントスただ1つ。当初参戦が見込まれていたアタランタ、インテル、ローマなどは、セリエCの登録枠の制限や参戦のための拠出金といったハードルを嫌って最終段階で撤退し、そのまま不参加の状態が続いている。
「BチームのセリエC参戦」の真意
ユベントスがそれに同調しなかったのは、どこも参戦しなければこの制度自体が不要のものと判断され、実現可能性そのものが失われてしまうという状況に対する危機感、そしてイタリアサッカー界のリーダーとしての責任感があったからだが、それだけが理由ではない。クラブの総合的な戦略において育成部門の役割が明確に位置づけられており、それを機能させるためにはBチームのプロ登録が極めて重要だったからだ。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。