ユベントスは、欧州のメガクラブの中でも、野心的な経営戦略を打ち出している部類に属する。ロゴマークの変更に象徴されるブランドイメージの再構築、過大なコストを投じてのクリスティアーノ・ロナウド獲得といったここ数年の大胆な試みは、それまでの堅実経営路線とは明らかに一線を画すものだ。
イタリアの国内市場はほぼ飽和している上に、国際競争力が5大リーグ中4番手にまで落ち込んだセリエA放映権収入からはこれ以上多くを望めないという状況もあって、ユベントスの売上高はヨーロッパ全体ではトップ10に入るのがやっと。この現状を打開してスペイン2強、プレミア勢、バイエルン、パリSGというライバルと互角に渡り合えるレベルまで売上高を増やすためには、グローバル市場をターゲットにした新たな事業戦略を構築する必要がある――。近年のユベントスの戦略転換の背景にこうした現状認識があることは、アンドレア・アニエッリ会長が、株主総会などの機会に発してきたコメントを見れば明らかだ。
この新たな戦略のシンボルと位置づけられるのは、やはり2017年夏に導入された新ロゴマークと、それを軸とするブランドマーケティング戦略だろう。
しかしもちろん、クラブのロゴマークを新しくするだけで、売上高が拡大しチームが強くなるわけではない。新しいロゴマークは、ユベントスのブランド価値を伝えるための視覚言語であり、新たなグローバルマーケティング戦略の基本ツールではあるが、それ自体でブランド価値そのものを飛躍的に高めるような力は持っていない。言ってみれば「ユベントス商店」の店構えでありパッケージであって、そこで提供される商品・サービスのクオリティはまた別の話だということ。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。