【月間表彰】川崎フロンターレ、妥協なき仮装の先に
DAZNとパートナーメディアによって立ち上げられた「DAZN Jリーグ推進委員会」の活動の一環としてスタートした企画「月間表彰」。2020明治安田生命Jリーグで活躍した選手、チームなどを各メディアが毎月選出。フットボリスタでは「月間MIC」(Most Interesting Club)と題し、ピッチ内外で興味深い取り組みをしていたクラブを紹介する。
10月度は「KAWAハロー!ウィンPARTY」を開催した川崎フロンターレを選出。事業推進部集客プロモーショングループの島貫篤氏に、大きな話題となった選手のハロウィン仮装の裏側やイベント活動のコンセプトなどについて話を聞いた。
「目玉おやじしかやらない」
――毎年恒例となりつつある「KAWAハロー!ウィンPARTY」ですが、今年はコロナ禍ということもあり、開催に至るまでには例年以上の苦労があったのではないでしょうか?
「『KAWAハロー!ウィンPARTY』は規模が小さい頃から作り上げてきた思い入れのあるイベントです。中止の判断をすることは簡単ですが、コロナ禍においても開催することをサポーターは待ってくれていると考えました。これまでは『trick or treat』と声をかけてもらえればスタジアム外で不特定多数の人にお配りしていたロッテさんのお菓子を検温済みのサポーターに渡すためにスタジアム内の来場者に限定することや、選手の仮装撮影も人との接触を減らして、換気を徹底するなど感染対策をした上で開催を決定しました」
――同イベントの目玉である選手の仮装は、コロナ禍や過密日程で準備が大変な状況においてもクオリティが上がっている印象があります。
「様々な関係者のご協力のおかげです。今年は(コロナ対策として)撮影準備期間が短かったり、ポスターの納品が(撮影から)1週間しかなかったり、例年以上に厳しい条件下での開催だったのであらためてこの場をお借りして感謝をお伝えしたいです。クオリティが上がっているのは衣装による部分も大きいと思います。フロンターレのサポーターでもあるスタイリストの吉成早都子さんがいつもピッタリの衣装を用意してくださるので」
――Jリーグの優勝賞金によって衣装にかける予算が増えているということはありますか?
「いえ、むしろ今年はコロナの影響で予算は厳しい状況でした。それでも『KAWAハロー!ウィンPARTY』はうちの重要なイベントですし、こういう状況だからこそ楽しめるものではなければいけない、衣装のクオリティは譲れないと思って準備しました」
――全28選手分の仮装アイディアを考えるのは大変だと思いますが、コンセプトや選定基準を教えてください。
「まず、昨年実施したものを選ばないことは大前提です。その上で中村憲剛選手の“ダンディ坂野さん”など旬を逃さないようにしています。SNSの声から決めたものもあって、三笘薫選手の鬼太郎はサポーターが『髪が長くてゲゲゲの鬼太郎に似ている』とつぶやいているのを見たことがきっかけです(笑)」
――今年「ゲゲゲの鬼太郎」関連の仮装が多かったのにはそういう背景があったのですね。鬼太郎(三笘薫選手)、子泣きじじい(守田英正選手)、ねずみ男(下田北斗選手)、そして……目玉おやじ(登里享平選手)はもはや誰の仮装かわかりません(笑)
「登里選手は本当にこだわりが強くて。我われも『(目玉おやじは)顔が映らないから違う仮装に変更しよう』と提案したのですが、頑なに『目玉おやじしかやらない』と言って(笑)」
――選手がピッチ外のイベントに積極的に参加している川崎フロンターレらしいエピソードですね。
「選手たちの仮装に対するこだわりは強まっていて、例えば守田選手はJリーグの中断期間中に披露したピコ太郎のクオリティが高かったので『KAWAハロー!ウィンPARTYでもやろう』と提案したのですが『1回やったのは嫌だ』と。そうやって真剣に考えてくれるのはありがたいです」
――そうした選手の協力体制を振り返ると過去には中西哲生さんや岡山一成さん、現役では中村憲剛選手などチーム内で影響力を持ったキーマンの存在がありました。中村選手が今シーズンで引退する中で、来シーズン以降もクラブの“伝統”を継続するために必要なものは何でしょうか?
「選手の協力に加えて、我われフロントスタッフもクラブの歴史や伝統を引き継いでいく一員としての自覚を持つことは意識したいです。その上で選手に企画の意図を理解してもらって、協力してもらう。これまでは中村憲剛選手の企画に取り組む姿勢がパワーとして他の選手に伝わっていたと思いますが、そうした雰囲気を私たちも創れるようになりたいですね」
フロンターレを通じて川崎市の魅力を伝える
――「KAWAハロー!ウィンPARTY」を含め、多くの企画に共通する目的はありますか?
「サッカーには勝敗があります。私たちではコントロールできない部分なので、勝敗以外の部分でも競技場でいかに楽しんでもらえるのかということが目的です。その上で川崎に縁があるコンテンツは必ず準備するようにしています。地元・川崎の地域性や魅力を伝えて、川崎に住んでいることを誇りに感じてもらえるような内容は意識しています」
――こうした活動の積み重ねが、Jリーグ観戦者調査における「ホームタウンで大きく貢献している」クラブの1位を記録し続けている理由ですね。
「イベントとは少し違うかもしれませんが、台風で多摩川が被害にあった時には清掃活動をしたり『地域』を強く意識していることはフロンターレの特徴であると自負しています。あとは、今日もこの取材の前に川崎市の小学校を訪問して『本の読み聞かせ』イベントを学校の授業の一環として教育委員会さんや『ひょっこりひょうたん島』で有名な川崎に拠点がある『人形劇団ひとみ座』さんと連携して行ってきました」
――どれもアットホームと言いますか、川崎フロンターレらしさを感じさせる活動です。以前、同じ神奈川県をホームタウンとする横浜F・マリノスを取材した際に、フロンターレとの差別化を意識したクラブブランディングとして「洗練」や「エキサイトメント」といった言葉を使われていたのですが、フロンターレとして意識されているブランディングはありますか?
「さきほどお伝えした部分と重なる部分もありますが、『地域性』『話題性』『社会性』『公共性』『低予算』は常に意識しています。『KAWAハロー!ウィンPARTY』にはアイデンティティさんにゲスト出演していただいたのですが、田島(直弥/野沢雅子さんのモノマネで有名なお笑い芸人)さんも川崎に住まれていたという背景があって」
――ゲスト出演といえば、2019年に『BAD HOP』のT-PABLOWさんが始球式をされました。話題性は抜群ですが、川崎の荒れたイメージを歌詞にしているヒップホップグループということもあり、フロンターレのイメージとは違う意外性のある人選でした。
「確かにファミリー層など少し抵抗を感じられる可能性はあったかもしれませんが、T-Pablowさんがフロンターレをすごく好きでいてくださっていることや、川崎を大事に思って街を盛り上げていきたいという志は合致するところだと考えてお願いしました」
――「ファミリー層」という言葉が出ましたが、川崎市は武蔵小杉駅を中心に政令指定都市の中で最も高い人口増加率となっています。今後、そういった層へのアプローチは重要なテーマになりそうです。
「まさにその通りです。子供を含めて家族で楽しんでもらうコンテンツはますます大切になってきます。お子さんがフロンターレを好きになってくれると親御さんも一緒にスタジアムに来てくれる可能性が高まる。お菓子がもらえるから(KAWAハロー!ウィンPARTY)、力士の方とちびっこ相撲ができるから(イッツァスモウワールド)といった、スタジアムに来てもらうきっかけ作りは継続するつもりです」
――一方で昨シーズンの新規観戦者割合は2.1%と意外に少ない結果になっています。これはスタジアム集客率がJ1で唯一80%を越えていて、チケットが取りにくいという事情も影響していることが推測されます。こうした状況下で今後、スタジアムに来てもらうこと以外のコンバージョンポイントの設計をされる予定はありますか?
「そこはクラブとして課題認識を持っています。今はチケットが買いづらい状況で、販売ルートもインターネットのみとなっています。そうしたスタジアムに来場いただけない方の受け皿としては今年から『FRO CAFÉ(フロカフェ)』を試合観戦できる場所としてオープンしました。また、試合観戦以外のコンバージョンとしてはフロンターレを応援してくれる『サポートショップ』の飲食店などにファン・サポーターが自然と遊びに行ってもらえるようになると川崎市にフロンターレが存在する価値が高まるので、そういうアプローチも忘れてはいけないと考えています」
――本日はありがとうございました。コロナ禍で難しい状況下ですが、引き続き面白い企画を楽しみにしています。
「こちらこそありがとうございました。フロンターレは地域の魅力や話題を提供して川崎市を盛り上げていくということをこれからも大事にして、サッカーを好きな方はもちろん、サッカーを好きではない方にもアプローチできるような企画を今後も考え続けていこうと思います」
Atushi SHIMANUKI
島貫 篤
2008年川崎フロンターレにアルバイトとして入社。2010年大学を卒業ともに、株式会社ミリアルリゾートホテルズへ就職。その後、海外のエンターテインメント会社で1年間働き、2015年川崎フロンターレに入社。入社後は施設管理の部署へ配属。2018年より集客プロモーショングループ所属。
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime