新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査は、現代のプロサッカークラブが活動を続けていくうえでは不可欠なものとなっている。だが、イタリアではその検査をめぐり、スキャンダルにも発展しかねない勢いで騒動が拡大している。
機関ごとに異なる検査結果
地元メディアは11月9日、カンパーニャ州アベッリーノの地方検察がラツィオのPCR検査を請負っていた私立医療研究期間から検査データを押収し、専門家の下で再分析すると報じた。
発端は10月26日。UEFAチャンピオンズリーグのクラブ・ブルッへ戦に臨むラツィオが選手にPCR検査を受けさせたところ、チーロ・インモービレにウィルス感染の陽性が発覚した。3日後、インモービレは再検査を受け、検体はラツィオが懇意にしている医療研究機関「フトゥーラ・ディアニョスティカ」にて分析された。
通常、検体はイタリアで採取され、UEFAの主催大会に向けた検査においては指定機関で分析が行われるが、セリエAでは各クラブが検査機関を自由に選択していいことになっている。そこでの検査結果は陰性。インモービレはチームに復帰し、1日のトリノ戦(アウェイ)に出場して4-3の勝利に貢献した。
問題はその後だ。ラツィオが4日のCLゼニト戦に向けて検査を行い、結果をUEFAの指定機関へ提出したところ、インモービレとルーカス・レイバ、そしてトーマス・ストラコシャの3名が陽性と判定されたのだ。
ラツィオはUEFAに抗議を行ったが、それと並行してイタリアサッカー連盟(FIGC )はアベッリーノの検査機関についての調査を開始、アベッリーノ地検も捜査に乗り出した。
クラブも不正に関与か
一方で、ラツィオはインモービレら3名について別途ローマ市内の別の機関で検査を行うが、なんとここでも陽性反応が出てしまう。クラブは地域保健所の要請を受け、3名を8日のユベントス戦のメンバーから外すこととなった。
ユベントス戦に向けては、他の選手の検体分析も従来通りアベッリーノの研究機関で行っている。検査の不正を疑った検察はこの検査データを押収し、10日にアベッリーノ市内の病院で再分析を行うことに決めたのだという。
地元メディアの中には、検査機関のみならずクラブ側の不正行為を強く疑う報道を過熱させているところもある。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、ラツィオがローマの地域保健所に検査結果を書面報告していなかった疑いや、クラウディオ・ロティート会長と医療研究機関との癒着の疑惑にまで踏み込んで報道した。
ラツィオサポーターがローマの街中に同紙へ抗議の横断幕を掲げた一方、著名記者がサポーターを名乗る人物から脅迫を受け、同紙の電子版で抗議声明が出る事態にまで発展した。
『ラ・レプッブリカ』は「トリノのウルバーノ・カイロ会長が報道を根拠にFIGCに対しラツィオのプロトコル違反を調べるよう要請した」と報じており(なお、カイロ会長は『ガゼッタ』紙を所有する出版社グループの主要株主兼会長でもある)、騒動はイタリアサッカー界の各方面に発展しそうだ。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。