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ウォード・プラウズのゴルフスイングに13年前の“名シーン”を回想

2020.11.09

 最近の試合は、ピッチ上での“ソーシャルディスタンス”のおかげでゴール後のセレブレーションがとても見やすい。以前のように得点者がチームメイトにもみくちゃにされることも少ないので、じっくりとゴールパフォーマンスを堪能できるのだ。

ゴルフスイングに13年前を回顧

 そんな中で、サウサンプトンのMFジェイムズ・ウォード・プラウズのゴールパフォーマンスが目に留まった。

 首位争いを演じる好調サウサンプトンで活躍するMFウォード・プラウズは、先月末のエヴァートン戦でゴールを決めると、ゴルフのスイングで得点を祝ったのだ。それを見て懐かしく感じたのは筆者だけではないはずだ。

 ウォード・プラウズはゴールパフォーマンスについて「息子がゴルフに熱中しているし、翌日にチームメイトとゴルフに行く予定だったから」と地元紙に明かしたが、“ゴルフスイング”には、そんな微笑ましいエピソードばかりがあるわけではない。少なくとも2007年のリバプールは違った。

 当時、ラファ・ベニテス率いるリバプールはUEFAチャンピオンズリーグのバルセロナ戦を控え、ポルトガルで合宿を張っていた。そこで、ちょっとした事件が起きたのである。合宿中のある晩、監督の許可を得て選手たちだけで食事会を開き、軽くお酒を口にしたのだが、それが間違いだった。

 ハイペースでグラスを空ける選手がいたのだ。ウェールズ代表FWクレイグ・ベラミーである。少し飲み過ぎた同選手は、チームメイトのDFヨン・アルネ・リーセにカラオケで1曲歌うようにしつこく強要した。執拗に“カラハラ”を受けたリーセは、2年前に出版した自叙伝『Running Man』で当時の様子を振り返っている。

 食事中から「リーセが歌う! リーセが歌う!」と叫ぶベラミーに苛立ちを覚えていたリーセは、なかなか黙らないベラミーにしびれを切らして「俺は歌わない。黙れ。さもないとぶん殴るぞ!」と詰め寄ったという。これにはベラミーも「殺すぞ。この赤毛のクソヤロウ」と言い返してきたそうだ。

真夜中に大惨事寸前

 呆れたリーセが一足先にチームホテルに戻って寝ていると、夜中に部屋のドアが開いて誰かがベッドに近づいてくるのを感じたという。それがゴルフクラブを片手に持ったベラミーだった。ベラミーは思い切りクラブをベッドに叩きつけたという。足を畳んで避けなければ「選手キャリアが終わっていた」とリーセは振り返る。

 「仲間の前で俺に舐めた口をきくのは誰だろうと許さない!」とベラミーは完全にキレていたそうだ。そして「俺は牢屋に入れられても構わない! 子供たちのために十分な蓄えはある。だからお前をヤる」と言い放ってゴルフクラブで思い切り叩いてきたという。何とかベッドシーツで防ごうとしたリーセだが、今度は実際に臀部や太腿に当たり、大きなあざができるケガを負った。

 リーセが慌てて「ゴルフクラブを置け。やるなら素手で本当の勝負をしよう」と諭すと、ベラミーも「それなら明日の9時に決闘だ」と納得し、何とかその場は収まったという。だが翌朝、リーセが約束の9時にベラミーの部屋をノックしても応答がなかったという。

 結局、決闘は果たされず、リーセも「ベニテス監督とチームのこと」を考えてベラミーに報復をしなかった。そしてベラミーが監督に諭されて謝罪し、8万ポンドの罰金を受け入れて一応は一件落着した。

 しかし、その騒動はマスコミに漏れて大々的に報じられ、大一番を前に変な注目を集めてしまった。そんな中で迎えたバルセロナ戦、同点ゴールを決めたのはベラミーだった。

 そしてベラミーは、カンプノウのコーナーフラッグに駆け寄ってゴルフスイングでゴールを祝ったのだ。その姿を見たリーセは、ゴルフクラブで殴られた怒りを思い返して「ふざけるな!」と思ったそうだ。

バルセロナ戦で同点ゴールを決めたベラミー(左)はゴルフスイングのパフォーマンスを披露した

 だが、サッカーとは面白いもので、試合終盤の74分には、あわや決闘という事件を起こした2人が抱き合うことになるのだった。ベラミーのパスをリーセが苦手な右足で決めて2-1と逆転したのだ。リーセは、ベラミーが駆け寄って飛び乗ってきた瞬間、歓喜のあまり怒りを忘れていたという。

お互いに思うところあり

 リーセは自叙伝にこう綴る。「ベラミーと私が証明したのは、あのチームには逆境をはねのける強さがあったということ。でも、私は最後まで彼と友達にはなれなかった。ホテルでの自分の対応は賢明だったと思うが、やり返せばよかったという気持ちは拭えない……」

 一方で、加害者のベラミーはというと、昨年ジェイミー・キャラガーのポッドキャスト番組に出演した際に「恥ずかしい話さ。自分が愚かだった」と認めながらも、リーセについては前から思うところがあったと明かした。

 マンチェスター・シティ時代の同僚であるバンサン・コンパニに誘われて、昨年からアンデルレヒトのU-21チームの監督を務めているベラミーは「リーセたちと一緒にゴルフをしていたのさ」と事件当日を振り返った。

 ベラミーは、ゴルフ中にイカサマをするリーセに腹を立てたという。さらにリーセは、嘘をついてクラブのクリスマスパーティを欠席したこともあったため、ベラミーはどうしてもリーセに罰を与えたく、1曲歌うように強要したのだという。

 だがリーセが反抗したため“逆ギレ”したのだ。酔っていたこともあり、時間とともに怒りが膨らんで、ああいう暴挙に出たという。

 そのシーズン、結局リバプールはCLのラウンド16でバルセロナを退けると、PSVとチェルシーも破って決勝まで勝ち上がった。2005年と同カードとなったファイナルではミランに敗れて準優勝に終わったが、あんな事件を起こしながら決勝まで勝ち進んだのである。

 友情や信頼関係がなくても、チーム一丸となって強大な敵に挑める。それがこのスポーツの魅力の1つかもしれない……。


Photos: Getty Images

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クレイグ・ベラミーサウサンプトンヨン・アルネ・リーセリバプール

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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