移り変わる戦術トレンド:クロス対応のゾーン化
近年のサッカー界における戦術トレンドの1つとして、「クロス対応のゾーン化」が挙げられる。ゾーンディフェンス自体は、アリーゴ・サッキ率いるミランが欧州を席巻した時代から当たり前に定着した戦術であり、今日純粋なマンツーマンを守備の局面のメインの原則にしているチームはほとんどゼロだと言っていい。
だが、相手のクロスボールに対するペナルティエリア内での対応に関してはマンツーマンがほんの最近までは主流だった。この潮流を変えたのが、ゾーンディフェンスの信奉者であり昨季はユベントスで監督を務めたマウリツィオ・サッリがかつて率いた2017-18シーズンのナポリだろう。それまでもクロス対応をゾーンで行う監督は少数ながら存在していたが、明確に守備のすべての局面を厳格なゾーンディフェンスでオーガナイズし、それでいてトップレベルでセンセーショナルな活躍をした最初のチームと言っていいはずだ(実際にはペップ・グアルディオラ率いるバイエルンも当初からクロス対応をゾーンでオーガナイズしていたが、他の局面の革新性に気を取られてあまり注目はされなかった)。
ナポリの躍進に合わせて2018-19シーズン、そして2019-20シーズンとヨーロッパでは急速にクロス対応のゾーン化が浸透していった印象で、これは現代サッカーを取り巻くあまりにも急激な変化のスピードを感じさせる出来事と言える。ただし裏を返せば、トップレベルで活躍する多くの監督たちにとって、クロス対応のゾーン化はそれだけ急速に取り入れようとするほど魅力的な守り方に映ったということだ。……
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Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd