天才の育成は、なぜ難しい? イタリアからワールドクラスが消えた理由
書籍『サッカーココロとカラダ研究所』本文特別公開#3
試合の内容、結果に大きな影響を及ぼし得るにもかかわらず、「テクニック」や「戦術」と比べて理解するために必要な視点や知識すらまだ十分に整理されていないサッカーの「フィジカル」と「メンタル」。そんな「未知の領域」について、選手、コーチ、監督という異なる立場からプロサッカーの現場を当事者として経験してきたイタリア人エキスパートのロベルト・ロッシと、 イタリア在住ジャーナリストの片野道郎が様々な角度から掘り下げ、全体像に迫ったのが『サッカー“ココロとカラダ”研究所 イタリア人コーチと解き明かす、メンタル&フィジカル「11の謎」』だ。今回はその中から、特に読んでもらいたい5つのエピソードを特別に公開。カルチョの理論と現場を深く知る2人の「メンタル&フィジカル」の謎を解く旅に、ぜひご同行願いたい。
※選手の年齢・所属等の情報はすべて発行時点のもの
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過干渉と精神的成熟の遅れ
片野「さて、ここからはがらっと切り口を変えて、『育成』という切り口からサッカーが持つフィジカルとメンタルの側面を掘り下げてみたいと思います。
例えば、テクニックやセンスといった側面から見れば圧倒的な才能を持ち、育成年代では『マラドーナ2世』『ジダンの後継者』『第2のメッシ』といった評価を受けながら、大成することなく消えていったプレーヤーは少なくありません。10代で頭角を現すために必要なのは何よりもテクニックであり『ボールと戯れる能力』だと思います。ただし、そこからプロフットボーラーとして世界的な舞台で違いを作り出す真のワールドクラスに成長するためには、それとはまた異なる資質や能力が必要とされる。その間にはいったい何があるのかというのは非常に興味深いテーマです。
もう1つ、これはフィジカル、メンタルという枠に収まらない話なのかもしれませんが、イタリアでこのところ、ワールドクラスと呼べるプレーヤーがほとんど育っていない背景には何があるのか。文句なしでそう呼べるイタリア人プレーヤーは、78年生まれのブッフォン、79年生まれのピルロという、06年のドイツワールドカップで優勝した世代が最後で、80年代以降に生まれた世代で各ポジションで世界のトップ5に入るようなプレーヤーはほぼ皆無です。イタリアの育成において何かがうまく機能していないことは明らかであり、それが何なのか、そしてフィジカル、メンタルという観点がそこにどのように絡んでいるのか、掘り下げることができればと考えています」
ロッシ「その2つはどちらも多面的な分析が必要な問題だね。前章までと話を切り替える意味でも、まず2つ目の話題から入ることにしようか」
片野「そうしましょう」……