9月24日にハンガリーのブダペストで行われるUEFAスーパーカップ、バイエルンvsセビージャは観客を入れて開催されることになっているが、セビージャに振り分けられたチケット3000枚のうち2500枚は売れ残り、UEFAに返却されることになった。
弾丸ツアーを誰もが回避
売れ残りの理由は、あまりに厳しい条件だった。
チケットと飛行機代込みで365ユーロ(約4万5000円)というのはまあ相場である。が、ここにPCR検査費が加わる。ハンガリー入国時には入国日から72時間以内に検査を受け、陰性だったという証明書を当局に提出しなければならない。
検査費がだいたい100ユーロで、これに英語への翻訳料を加えると、計500ユーロ(約6万2000円)程度はかかってしまう。
さらに、到着後72時間以内にハンガリーを退去しなければならない。欧州カップ戦観戦の楽しみである現地観光はできないわけだ。
もちろんスタジアムでは厳しい衛生管理が待っている。観客数はそもそも収容人数の3分の1に制限されており、37度8分以上の熱がある者、何らかの症状がある者、試合日から14日以内に陽性だったり、濃厚接触者だったりした者は入場禁止(入場料は払い戻すそうだ)。スタジアム周辺・内部でのソーシャルディスタンスは1m50cm、すべての場所でマスク着用が義務で、手洗いも励行すべき……。
スペインでは毎日8000人前後の新規感染者が出ており、特に深刻なマドリッドでは一部地域で限定的なロックダウンを行うことが9月16日に発表されたばかり。
そもそも集まって旅行に行くこと自体が危険なので、大金を払って“弾丸ツアー”をするよりも、家でテレビの前で応援した方が良い、と考えるのは当然だろう。
有観客開催はまだ先の話
一方、バイエルン側は事情が違うようだ。以上紹介した条件はすべてスペイン、ドイツ共通なのだが、バイエルンがPCR代を負担することで3000人のファンを動員することを見込んでいるという。
感染拡大も、ドイツではさほど深刻ではないのだろう。24日のプスカシュ・アレーナは3000人vs500人、バイエルンのホーム状態になりそうだ。
UEFAはこの試合を、観客入れて開催する試合のテストケースとするつもりだった。しかし、スペインでは今、その可能性すら議論されていない。
リーガは9月12日、当然のように無観客で開幕した。観客を入れるどころか、厳重に健康管理されているはずの選手やチームスタッフに陽性者が出て、無観客の練習試合すら次々と中止に追い込まれているのだ。
ロックダウンの期間がどこよりも長く、屋外ですらマスクの着用義務があるこの国が、どうしてこんなことになってしまったのか?
いろいろ思うことはあるのだが、サッカーとは関係のない話になってしまうので、また別の機会に。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。