残留争いの真っ最中に、主力選手が引き抜かれる――そんな悪夢がエイバルに起ころうとしている。
オレジャナの契約が満了に
コロナ禍は様々な変化をサッカー界にもたらしたが、シーズン中の契約終了問題もその1つ。6月30日は欧州サッカー界のシーズン終了の日で、契約の区切りでもある。ところが、コロナ禍による中断で、今季はシーズン中に6月30日を迎えることになった。
当初、FIFAは6月30日限りで契約が終了する選手に対してシーズン終了までの自動延長をルール化しようとしたが、今は延長の「奨励」に留まっている。クラブ側の都合で労働契約を一方的に延長することは、労働者の権利を侵害する行為だからだ。
FIFAのルール化断念によってクラブと選手の個別交渉が必要になったわけだが、エイバルはオレジャナと合意に達することができず、6月30日をもって雇用関係が終了することになった。
この破局の裏にあるのが、バジャドリーによるオレジャナ獲得の動きだ。公には発表されていないものの、来季の移籍は確定事項とされている。
第31節終了時でエイバルは17位、バジャドリーは14位で、ともに残留を争いの真っ最中。バジャドリーは7月1日以降にオレジャナと契約したとしても、今季中、つまり7月19日のリーガ終了までは選手登録できない。しかし、だからと言って残留争いのライバルに8ゴール6アシストの強力アタッカーをレンタルするほどお人好しではないだろう。
つまり、7月1日以降の6試合、エイバルはチーム得点王兼チームアシスト王抜きで戦わなければならないわけだ。
リーガ内での移籍は後味が悪い
ドイツではRBライプツィヒのティモ・ベルナーのチェルシー移籍が決定済み。ブンデスリーガ終了後の他リーグへの移籍となるため軋轢は少なかったようだが、8月に予定されているUEFAチャンピオンズリーグを、RBライプツィヒはチーム得点王抜きで戦うことになり、中立地開催で期待された小兵によるビッグサプライズは可能性薄となった。
自由契約になるオレジャナが新天地を探すのは自由だし、バジャドリーがオファーを出すのは自由である。法律上まったく問題はない。
だが、今季の特殊事情の下、シーズン途中でのライバルによる引き抜きという形になれば後味は悪い。そして、FIFAが口を出せなかった問題にスペインサッカー連盟やラ・リーガが介入できるわけでもない。
この他、エイバルではいずれも主力のラミス、エスカランテ、ブラシス、ペドロ・レオン、チャルレスの契約が6月30日で終了する。
他クラブではサン・ホセ、ベニャ(アスレティック)、ディエゴ・ロペス、ウ・レイ(エスパニョール)、ソルダード(グラナダ)、アドリアン(オサスナ)、バネガ(セビージャ)らが同じ状況だ。
万が一、このうち何人かがシーズン中に離脱し、リーガ内で移籍(書類上は可能である)することになれば、コンペティションの公正さは有名無実化してしまうだろう。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。