リーガの副キャプテンの顔ぶれを見ると、バスク2強アスレティック・ビルバオのイニャキ・ウィリアムス(25歳)と、レアル・ソシエダのミケル・オヤルサバル(23歳)の若さが際立っている。
前者は、帝王学の一種だと言って良いだろう。将来の柱になる若者を副キャプテンに据えて、クラブの伝統を学ばせる、という。キャプテンはクラブの全体像を学ぶには最適のポジションだ。試合中の審判とのやり取りからメディア対応や声明発表、フロントとのボーナスの交渉まで、キャプテンの仕事はグラウンド内外に及ぶ。第1キャプテンとしてはリーガ最年少のイケル・ムニアイン(27歳)も同じ道を歩んできた。
キャプテンを通じての帝王学は、バスク人だけで構成するという特殊なフィロソフィを持つアスレティックだからこそ可能でもある。第4キャプテンに選ばれる前、昨夏ウィリアムスは2028年6月までの9年契約を結んだ。契約終了時には34歳になっているから“生涯契約”と言っていい。契約期間は長くて3年、それですらまっとうせずチームを変えるのが当たり前になっているご時勢、異例の超ロング契約である。これもバスク地方に根付き、バスクの血を尊重し、「アスレティックでプレーするのが夢」と誰もが疑わないクラブだからこそ可能なことだ。選手人生をクラブに捧げることが決まった。その忠誠心と引き換えに副キャプテンという大役を、例えばアリツ・アドゥリス(39歳)を差し置いて与えられたわけだ。
オヤルサバルのケースも似ている。
財政危機を経験した2010年代以降に育成重視に切り替え、今はレギュラーの半数以上が下部組織出身者であることも珍しくない。オヤルサバルは、第1キャプテンのアシエル・イジャラメンディ(30歳)以来、久々に現れた地元出身のスター。19歳でA代表デビューし二十歳そこそこでゲームキャプテンを任されるなど、クラブの年少記録を次々と樹立中だ。
間違いなく将来クラブを背負うタレントであるが、同時にいずれビッグクラブに引き抜かれることもまた間違いない。一昨夏、ライバル、アスレティックのオファーを断りファンを熱狂させたものの、CL優勝を狙うクラスのクラブから声がかかれば「ノー」と言い続けるのは難しい。キャプテンの経験は彼に人として必要なモラルや規律を身に付けさせ、タレントの開花を助けるに違いない。だが、大輪の花を咲かせた暁には、その帝王学は他のクラブで生かされることになる。
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Photos: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。