ストーミングの旗手#8
現在のサッカー界における2大トレンドとして、「ポジショナルプレー」とともに注目を浴びている「ストーミング」。その担い手である監督にスポットライトを当て、指揮官としての手腕や人物像に迫る。
「闘牛の群れが土煙を上げながら突っ込んでいくような攻撃」と言っても大げさではないだろう。『ビルト』紙はボルシアMGのFW陣を「嵐を呼ぶ雄牛たち」(Sturm-Bullen)と名づけた。今季ボルシアMGはブンデスリーガで波乱を起こし、前半戦終了時点で2位につけている。
その立役者が昨年夏にやって来たマルコ・ローゼ監督だ。[4-3-1-2](タイヤモンド型の中盤)と[4-3-3]を使い分け、強度の高いプレスと矢のような前線へのスプリントで相手を圧倒している。
ローゼは旧東ドイツのライプツィヒ出身で、マインツに8シーズン在籍した元DFだ(ユルゲン・クロップとトーマス・トゥヘルの下でプレー)。2010年からマインツのセカンドチームで選手を続けながらアシスタントコーチを務め、指導者としてのキャリアをスタートさせた。転機は2013年、レッドブル・ザルツブルクのSDだったラルフ・ラングニックから声がかかり、同クラブのU-16監督に抜擢されたことだ。2015年にU-18に昇格し、2017年4月に“19歳以下のCL”UEFAユースリーグでオーストリア勢として初優勝。2017年にトップチームを任されると国内リーグを2連覇し、ELでは準決勝に進出。一躍注目の監督となり、移籍金300万ユーロでボルシアMGへ引き抜かれた。
6年間レッドブルにいたのだから、当然プレースタイルは強度が高いものになる。ボルシアMGのボランチ、クリストフ・クラマーはこう解説する。
「守備の位置がとにかく高い。ボールを失っても戻らず、敵陣で取り返そうとする。そして奪ったらゴールへ一気に迫る。明らかに昨季よりスプリント数が増えた。体だけでなく、頭も休んではダメ。ノンストップサッカーだ」
ただし、他の“ラングニック派”と異なる点もある。ポゼッションも大事にしていることだ。レバークーゼン時代にロジャー・シュミットの下でプレーしたクラマーは、両者の違いを身をもって知っている。
「シュミット監督はロングボールで相手陣内に混戦を作り、そこに激しくプレスをかけて攻撃を試みる。一方ローゼ監督はロングボールが少なく、試合のコントロールを好むんだ」
パワーフットボールとポゼッションの融合。この難解なスタイルを実行する上で鍵となるのが、遅攻になった際、いつ攻撃を早めるかだ。練習ではローゼが「tief!」(深くへ!)と叫ぶと、縦へのスイッチが入り、複数の選手が一斉に前へ走り出す。例えばSBがアンダーラップ(インナーラップ)で深い位置へ走るといった動きだ。FWのブレール・エンボロは言う。
「練習では互いにどこへ走り、誰がシュートを打てる位置に入るかを確認し合っている。走るコースの理解がどんどん深まっている」
バックアップ体制も万全だ。元ドイツ代表のアレクサンダー・ツィックラーが「ストライカーコーチ」としてFWを指導。ローゼの依頼により、U-19のコーチだったオリバー・ノイビル(同じく元ドイツ代表)がコーチ陣に入り、フランス語力を生かしてフランス出身選手をサポートしている。クロップ的でもラングニック的でもない新しいサッカーが、ボルシアMG発で生まれるかもしれない。
Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。