先日アーセナルの監督に就任したミケル・アルテタ(37歳)は、ペップ・グアルディオラとの師弟関係で有名だ。しかし、彼が師と仰ぐ者は他にもいる。
立ち振る舞いや戦術はペップを踏襲
アルテタは2016年にアーセナルで引退を決意した時、複数の名将からオファーを受けた。その中からペップの誘いに応えてマンチェスター・シティのアシスタントコーチに就任し、3年半もペップの下で過ごした。ペップとの関係はアルテタがバルセロナのカンテラにいた頃までさかのぼるので、かなり古い。16歳にしてバルセロナのBチームでデビューした際、グアルディオラに代わってピッチに入ったという。
2人の関係はそこからずっと続いており、ペップがバルセロナを率いていた頃には、イングランド勢との対戦の前にアルテタに連絡して相手チームに関する助言を求めていたという。そして2015-16シーズンのUEFAチャンピオンズリーグでペップのバイエルンとアーセナルが対戦した時、2人は試合後に長々と話し合っていた。その時に誘いを受けたとアルテタも認めている。
だから監督としてのスタイルはペップの影響が大きい。監督としての初陣となった12月26日のボーンマス戦で、アルテタの立ち振る舞いはペップそのものだった。テクニカルエリアでせわしくなく動き回り、ベンチに戻るとアシスタントと相談する。戦術についてもそうだった。左サイドバックのブカヨ・サカがウインガーのように攻撃参加するのに対し、右サイドバックのメイトランド・ナイルズは、シティが得意とする“偽サイドバック”を務めた。
右ウイングのリース・ネルソンをサイドに張らせ、右SBメイトランド・ナイルズは中盤でビルドアップに参加した。これにより、特に後半は非常にボールが良く回った。勝ち切れなかったものの、わずか1試合でウナイ・エメリ監督時代からの変化が見られたのだ。
ベンゲルは恩師、ポチェッティーノは父
冒頭で述べた通り、アルテタが師と仰ぐのはペップだけではない。アーセナルでは5年間もアーセン・ベンゲルの下でプレーし、キャプテンまで任された。ベンゲルはアルテタが引退を決めた際に「指導者として迎え入れる用意がある」と語り、「選手として、リーダーとしての貢献に感謝している」と付け加えた。
アルテタもアーセナルの監督に就任した際にはベンゲルへの感謝を忘れなかった。故郷バルセロナと似た哲学を持つアーセナルでのプレーを夢見ていたというアルテタは、「私を信じてチャンスをくれたのがベンゲルだった」と語り、「彼なくして今の自分はない」と最大級の敬意を口にした。
だが、アルテタには他にも師と仰ぐ、いや「父」と慕う者がいる。それが、彼の現役引退を知ってコーチ職のオファーを出してきた3人目の男、マウリシオ・ポチェッティーノである。バルセロナ出身のアルテタは、18歳の時にパリ・サンジェルマンにローン移籍し、そこで当時キャプテンを務めていたポチェッティーノとともにプレーしたのだ。
過去にアルテタは「本当にお世話になった」と語ったことがある。「彼はこう呼ばれるのを嫌うかもしれないが、まるで父親のようだった。駆け出しの僕にいろいろなことを教えてくれた。僕のキャリアの中で本当に大切な人間の1人なんだ」
ポチェッティーノは「弟のようだった」と語っており、その関係性にこそ少し異論があるようだが、「素晴らしい人間なので大好きなんだ」と絶賛している。こうしてアルテタは、数々の名将に認められながら、大切な出会いを経てアーセナルの監督にまで上り詰めたのだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。