注目クラブの「チーム戦術×CB」活用術
欧州のトップクラブはセンターバックをどのようにチーム戦術の中に組み込んでいるのか。そしてCBはどんな要求に応え、周囲の選手と連係し、どんな個性を発揮しているのか。2019-20シーズンの興味深い事例を分析し、このポジションの最新スタイルに迫る。
#12_シャルケ
名将ユルゲン・クロップの影響を色濃く受けるアメリカ国籍の指揮官、サンドロ・バーグナーを新監督に招へいした効果はスタッツによく表れている。ブンデスリーガ第13節終了時点でデュエル勝利数(1427回)、空中戦の勝利数(287 回、スプリント(3093回)と集中走行(全力疾走ではない走り。9479回)がいずれもトップ3。総走行距離(1512.8km)は8番目に長い。
戦術も個も良いところがなく、2018-19シーズンに14位と低迷したシャルケはよく走り、よく闘う、モダンな戦闘集団へと変貌した。
相手CBがパスを出した瞬間にプレスの強度を高めるのが基本の守備時は、[ 4-4-2]のコンパクトな3ラインを形成。ボールホルダーに対して数的優位になった瞬間、一気呵成に奪いにかかる。2人のCBは基本的に中央にどっしりと構えているが、その持ち場を離れることをためらわない。相手のゴールキックが自陣右のハーフスペースに飛んでくれば、本来なら右CBのバンジャマン・スタンブーリが対応するところだが、空中戦に滅法強い左CBのサリフ・サネが飛び出して来て迎撃するというのはその一例だ。
また、バイタルエリアの手前あたりで自身がボールホルダーに最も近ければ、相棒のCBとそろって後退するのではなく前へ出ることを厭わない。その時に生じる2CB間のギャップは、オマル・マスカレルが後方に下がることで巧みにカバー。この守備的MFの気の利いた動きが、最終ライン中央部を防衛する上での肝になっている。
2CBと守備的MFの好連係は、ビルドアップの際にも確認できる。ジョンジョ・ケニーとバスティアン・オクツィプカの両SBが高い位置を取る一方で、マスカレルが良いタイミングで2CBの間もしくはS.サネの左隣まで下がり、最終ラインからのパス出しをサポートしているのだ。周知の通り、グアルディオラ時代のバイエルンやトゥヘルが率いていた頃のドルトムントが採用し、今では珍しくなくなったメカニズムだ。
ボールを持っているCBに対する相手のアプローチが弱ければ、当然ながらマスカレルは最終ラインまで下がらない。その際に2CBがGKとトライアングルを形成して組み立てる場合があるが、時おり守護神のアレクサンダー・ ニューベルがバックパスの処理を誤るケースがある。また、第3節のヘルタ・ベルリン戦では最終ラインの背後を突かれた時、サリフ・サネとニューベルのどちらが対応するかはっきりしないシーンがあった。
CBとGK間の連係にはまだまだ改善の余地を残している。
Photos: Bongarts/Getty Images
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Profile
遠藤 孝輔
1984年3月17日、東京都生まれ。2005年より海外サッカー専門誌の編集者を務め、14年ブラジルW杯後からフリーランスとして活動を開始。ドイツを中心に海外サッカー事情に明るく、『footballista』をはじめ『ブンデスリーガ公式サイト』『ワールドサッカーダイジェスト』など各種媒体に寄稿している。過去には『DAZN』や『ニコニコ生放送』のブンデスリーガ配信で解説者も務めた。