ドイツのユニフォーム事情(1)アディダスの「一極集中」投資戦略
先日、ボルシア・ドルトムントがプーマと大型契約を結んだことが話題を呼んだ。2020年から2030年までの10年間で、総額3億ユーロ(約356億円)にもなるという。ドイツ紙『ビルト』は、このタイミングでブンデス各クラブのユニフォームのスポンサーとの契約内容を公開した。これらのリストを見ていくと、スポーツブランド各社と、クラブイメージの戦略が見えてくる。
一極集中のアディダス、バイエルンに圧倒的支援
1965年から続くバイエルンとアディダスの蜜月は終わる気配がない。もはや、国内7連覇と圧倒的な存在感を放つバイエルンは、グローバル企業として世界中のサッカーファンを相手に事業を展開しており、国際的知名度が圧倒的なバイエルンに一極集中で投資を行っている。2030年まで、年間6000万ユーロ(約71億円)と他の追随を許さない圧倒的な金額のサポートを行っている。
アディダスのチーフを務めるカスパー・ローシュテットは、シャルケやレバークーゼンのスポンサーを撤退した際に、バイエルンと国際的に知名度があるクラブへ集中することを説明した。「弊社は、国際コンツェルンなので、それに合わせて国際的に知名度のある“グローバル・シンボル”に集中します」というものだ。
同社はスペインのレアル・マドリー、イタリアのユベントス、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドと各欧州強豪国のトップクラブを抑えている。とりわけ、レアル・マドリーとは欧州チャンピオンズリーグの特別ボーナスの契約を結ぶなど、地球規模での存在感を意識している。
2019年からは、旧東ドイツ時代より市民クラブとして“独特の”存在感で異彩を放ってきたウニオン・ベルリンにも、スパイクを含めシューズをスポンサーとして提供している。2020年からは年間100万ユーロ(約1億2000万円)の契約でウェアもスポンサードする予定だ。ウニオン・ベルリンはそのクラブのあり方から主に英語圏を中心に若者の注目を集めており、これは国際的にニッチな需要をピンポイントで狙ったものだろう。
プーマはライバルクラブをサポート
ドイツ人兄弟で立ち上げたスポーツブランドが分離してできた「アディダス」と「プーマ」というドイツの2大ブランドのライバル関係は有名だが、このイメージはサッカー界のブランディングにもひと役買っているようだ。
現在、バイエルンのライバル1番手と見込まれているドルトムントとは、先述の大型契約(年間3000万ユーロ、10年契約)を結んだばかり。またクラシックファンにはバイエルンのライバルとしてお馴染みで、近年再び躍進を果たしたボルシア・メンヘングラードバッハには年間1000万ユーロ(約12億円)で2018年から2024年までの6年契約を結んでいる。「#GladToBeBack」をモットーに、レトロファンを取り込み、70年代の黄金時代を取り戻そうと働きかけている。イングランドでは、マンチェスター・ユナイテッドの同じ市内のライバルクラブ、マンチェスター・シティのスポンサーになるなど、シンプルながらストーリー性のある戦略を打ち出している。
今回はドイツを中心にグローバルブランドへと資金を集中投下するアディダス、ライバル関係というストーリー性に投資するプーマとそれぞれの思惑を見て取った。次回は、ナイキ、アンブロといった英米系ブランドのドイツ国内での存在を追っていく。
Photos : Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。