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今季プレミアで誰よりも走った「フォレスト・カンリフ」!?

2019.05.20

走って、走って、走りまくったサポーター

「今シーズンのプレミアリーグで走行距離が一番長かったのは?」

 そう聞かれて真っ先に思い浮かぶ選手は、マンチェスター・シティのMFベルナルド・シルバだろう。1月のリバプール戦ではプレミア記録となる1試合「13.7km」をマークした。だがシーズンを通して見ると彼ではない。ヒントはバーンリーだそうだ。

 それならば限られてくる。全試合にフル出場したのはベン・ミーだが、彼はディフェンダーなので37試合に出場してチームの心臓部を担ったMFジャック・コークだろう。だがそれも違うという。

 正解は「スコット・カンリフ」である……? ピンと来ない人がいるのも仕方ないことだ。なぜなら彼は選手ではなくバーンリーのサポーターなのだ。

 選手に限れば、今季プレミアで最も走ったのはクリスタル・パレスのMFルカ・ミリボイェビッチで、その距離は計447.1kmだという。だが45歳のカンリフさんは、その10倍以上となる「4944km」も走ったのだ。彼はバーンリーのアウェイゲーム全19試合を自分の足で観戦に行くと決め、毎回のように本拠地のターフムーアを出発して敵地まで走ったという。

 100日間かけて計735時間で560万歩も走り、ランニングシューズを15足も履きつぶしたという。総距離は約5000kmで、フルマラソンを118回ほど完走した計算になる。では、なぜ彼はこんな途方もない挑戦に乗り出したのか。それは「バーンリー愛」と「チャリティー精神」にあるという。

チャリティー文化が根付いたイングランドで

 カンリフさんは20年間も東南アジアでチャリティー活動に従事し、そこで悲しい現実を目の当たりにして鬱とPTSDに悩まされたという。そんな時に気分転換となったのがランニングだった。だから2018年に帰国すると、この偉大な挑戦を決意した。その名も「The RunAway Challenge」。

 そしてカンリフさんは、このチャレンジで寄付を募ることにした。そもそも英国はチャリティー文化が根付いた国で、学生同士の間でも「今度マラソンに出場するのでスポンサーになってよ」といった会話が日常的に交わされる。完走できたら、その友達がチャリティーに数ポンドを寄付するという流れだ。ただし、カンリフさんの場合はケタが違う。目標額は3万8000ポンド(約530万円)。それでも最終的には、その目標を大幅に上回る寄付金を集めてみせた。

 カンリフさんのラストランは5月3日、最後のアウェイゲームとなるエバートン戦だった。見事に走破すると、バーンリーの試合前の控え室に招かれて選手やスタッフから盛大な拍手を浴びた。「やり遂げて、今はホッとしている」と『BBC』に語ったカンリフさん。「一度もやめようとは思わなかった」と振り返るが、大変なこともあった。何より「恐怖」だったのは高速道路の橋の上を走ったときだという。

 そして、今年2月にはブライトンのアメックス・スタジアムまで雪に見舞われながら10日間かけて473kmも走った。イングランド北西部に位置するバーンリーにとって、長距離移動を強いられるのはロンドンや南部のクラブへの遠征だ。今季プレミアにはそういうチームが10個もあった。だから「酷いシーズンを選んじゃったね!」と苦笑した。

 次の目標は、2022年ワールドカップの開催地となるカタールまで走ることだという。その距離は実に7000km。でも「その前にイングランドが出場権を獲得しないとね」と、カンリフさんは冗談を交えながら3年後を見据えている。

Photos: Getty Images

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バーンリー文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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