エスクデロはハンドをしたのか?
競技規則は毎年少しずつ私たちが気付かないうちに変わっている。先日の第33節ヘタフェ対セビージャでこんなシーンがあった。ヘタフェのCKで、ブルーノ・ゴンサレスのヘディングシュートが前にいてジャンプしたセルヒオ・エスクデロの手に当たった。これはハンドか否か?
背中を向けていたエスクデロにはボールは見えていない。よって、手を使う意志がないことは明らかのように思える。「よってノーファウル」というのが、概ねこれまでの解釈だった。
が、今季から小さな変更があり、「手や腕が不当にスペースを埋めている場合もハンドとみなす」ことが強調され、審判に通達されていたのだ(2018年8月、スペイン連盟監修の審判向け指導文書より)。エスクデロの両手は肩より上に上がっていたが、これが不当にスペースを埋めたことにあたる。
刑法には「未必の故意」という言葉があり、酒癖が悪いことを知りながら包丁を手元に置いて酒を飲み酔っぱらって人を刺した場合、素面で包丁を用意した時点で殺意あり、とされるのだが、それと理屈は同じ。ボールに手を当てようと積極的に意図したわけではないが、そうなればいいなと期待しながら両手を上げてジャンプしたらボールが当たってしまった。その場合“シュートコースを消せればいいな”という未必の故意があった、との判断である。
選手も、監督もルール変更を知らなかった
――と、ここまでは私も知っていた。ロシア・ワールドカップのロシア対スペインでのジェラール・ピケのハンドがまさにこれだったから。が、不勉強にも知らなかったのは、それがリバウンドでも適用されることだ。
ボールは最初にエスクデロの首に当たり、跳ね返って手に当たった。エスクデロはリバウンドだと盛んに抗議したが、審判はそれを認めた上でなお、PKの笛を吹いた。要は、両手を上げジャンプしシュートコースを消した時点ですでにアウトなのである。
ジャンプする場合、腕を大きく振り上げた方が反動で高く飛べる。だから今まで多くの選手はそうやって飛んできた。だが、このPK判定が話題になったおかげで、今後はひじを曲げ、なるべく体にくっつけて飛ぶやり方に変わっていくのだろう。
セビージャは同じ様なハンドをフランコ・バスケスも犯し、2本のPKが致命傷となってヘタフェとの4位争い直接対決に敗れた。ルール変更のことをエスクデロ、フランコ・バスケスら選手は知らず、監督のホアキン・カパロスも知らず、私も含め大半のジャーナリストも、ほとんどのファンも知らなかった。我われは無知で恥をかいただけだが、セビージャはCL出場権を得られず、数十億円もの収入減となるかもしれない。あまりに高過ぎた授業料だった。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。