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ジェフ千葉が得た「結果」よりも大切な「熱」。小林慶行監督が掲げた青く瑞々しく危うい「自分たちのサッカー」の価値

2024.12.09

小林慶行監督が率いるジェフユナイテッド市原・千葉の2年目の挑戦は、J1昇格プレーオフにあと一歩届かない7位で幕を閉じた。結果だけで見ればプレーオフ進出を果たした1年目よりも後退しているが、サッカーの内容は明らかな進化が見られている。2024シーズンの手応えと課題とは?――クラブを追い続ける西部謙司氏に総括してもらおう。

ファンを魅了したシーズン

 2024シーズンも大詰めのJ2第37節、フクダ電子アリーナの外はひと足先にJ1に昇格していた。

 黄色い人々の群れが倍増している。何とも言えない高揚感はそれまで感じたことのないものだった。1万6740人、小林慶行監督の呼びかけに応じて集まった人数だ。これより多く入ったホームゲームも過去にはあったが、この試合ほどの熱気はなかったと思う。

 2024年のジェフユナイテッド市原・千葉のサッカーを一言で括れば、「ファンを魅了できるチーム」だった。もちろんいつもそうとは限らず、38試合の中にはファンをがっかりさせるような試合もあったけれども、トータルで魅力的だった。ファンを魅了し、魅了されたファンの応援によってチームが助けられる。最終的にはその循環を作れていた。

 チームがファンの情熱を呼び起こし、ファンの情熱がチームを後押しする。この熱量の交換ができた時点で、もうプロサッカークラブとしての目的は果たしている。これさえあれば、極論すれば結果などオマケに過ぎない。

 ただ、そうは言ってもシーズンの成績は7位。プレーオフに一歩届いていない。素晴らしい雰囲気だった長崎戦も、素晴らしいプレーをしながら1-2で敗れている。それでもまだ望みはあったが、最後の山形戦では前半に退場者を出した上にPKを与え、あっけなくシーズンが終わってしまった。

 なぜ、千葉は人々を魅了できたのか。そして、なぜプレーオフに進めなかったのか。それを考えると不思議なことに、どちらも同じ答えになってしまう。

「自分たちのサッカー」がもたらした一体感

 小林監督は、おそらくすべての試合後の会見で「自分たちのサッカー」と言っていたと思う。

 この「自分たちのサッカー」は便利な言葉なので、多くのチームがよく使っている。もちろん「自分たちのサッカー」という名のサッカーは存在せず、これだけでは何を意味しているのか皆目わからないわけだが、そのチームのファンにはこれで通じる便利な言葉だ。

 わかる人にはわかる。ファンとチームをつなぐ魔法の言葉。あくまで「自分たちの」であって、他のどことも違っている。「自分たちだけの」は言い過ぎになるけれども、心情的にはそういうこと。

 千葉の「自分たちのサッカー」は魅力的だった。その中身を具体的に説明しきるのは難しい。だから「自分たちの」で済ましているわけだが、あえて特徴を挙げると守備はアグレッシブなプレッシング。攻撃は後方からのビルドアップ。プレッシングにはその手順があり、上手くはまらなければ引くことも当然ある。ビルドアップはショートパスのポゼッションからライン間を狙いながらも、相手の守備の出方に応じてロングパス一発でゴールを直撃する二面性を持つ。だから、堅守速攻やポゼッションという一言で表現するのは難しく、それは現在の多くの「自分たちのサッカー」がそうだろう。

 肝心なのは、その「自分たちのサッカー」を表現できているかどうか。表現できていなければ、それは言っていることとやっていることが違うということになり、ファンの心は離れていく。完全な言行一致は無理としても、ある程度のものは見せなければならない。ただ、表現できたとして、それがファンを魅了できるかどうかはまた別の話になる。掲げている旗自体に魅力が乏しければ、やっぱり魅了することはできないわけだ。

 小林監督が掲げた旗は、一言で美しかった。色彩もデザインも、非の打ちどころがないくらい。

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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