そしてマンチェスター・シティ戦、リバプール戦へ。昨年11月の前回対決で4-4と張り合った王者相手のプレミアリーグ第25節(2月17日)に、是が非でもタイトルを手にしたいリーグカップの決勝(2月25日)というビッグゲーム2連戦を前に、悩めるチェルシーが価値ある連勝を果たした。ようやく形になり始めたポチェッティーノ監督のチームと、彼らを見守る西ロンドンのムードを、現地から山中忍氏がレポートする。
今季最悪からの今季最高
「変わるべき時」とつぶやいたのは、チアゴ・シウバの奥方。去る2月4日、チェルシーがホームでウォルバーハンプトンに敗れた(2-4)後のX(旧Twitter)投稿は、マウリシオ・ポチェッティーノ新体制の終焉を仄めかすかのようだった。さすがは、39歳の今季も読みの鋭さは鈍っていない大ベテランCBの伴侶。翌週には、この凡人にも「変化」を予感させる展開が待っていた。
もちろん、これは要らぬ発言のあったT.シウバ夫人への皮肉。チェルシーは、12日の第24節クリスタルパレス戦で、ポチェッティーノ軍としての「転機」となり得る逆転勝利を収めたのだ(1-3)。今季最高のチームパフォーマンスでアストンビラを下したのは、その5日前のFAカップ戦(1-3)。まだ32強段階の4回戦再試合ではあった。続くクリスタルパレス戦も、12連勝中という対戦成績だった“お得意様”が相手。しかし、だからこそ逆に開幕からの半年間で最も意義のある連勝だと思えた。
ポテンシャルはすこぶる高いものの、精神的に「うぶ」で「やわ」なチェルシーは、プレッシャー下での機能が大きな課題だと感じていたからだ。一気に若い集団と化した昨季プレミア12位は、いわゆる強豪対決では内容だけでも評価される挑戦者の立場にある。だが、非メガクラブとの対戦など、当然のように結果を求められる試合は別物。そのチームが、メディアで監督の後任人事が噂されるまでになっていた週に、一般的なビッグゲームではない連戦で結果を出したのだ。
直前のウォルバーハンプトン戦、敵地での前節リバプール戦(4-1)に続く大敗を見たスタンフォードブリッジの雰囲気は今季最悪だった。報じられた「ジョゼ・モウリーニョ」コールは筆者の耳に入ってこなかったが、記者席付近のシーズンチケット保有者たちは、「役立たず!」といった監督批判を叫びながら惨敗の不満を爆発させていた。
当の指揮官はというと、試合後の会見で若手をかばう発言はしても、選手たちへの批判や厳しい注文は一切口にしていない。前週にスコアレスドローに終わっていたアストンビラとの再戦前には、自らの確固たる信頼感を選手たちに伝えていたという。そのビラパークでのキックオフを異例の円陣を経て迎えたチェルシーが2連勝を飾る中で、計3得点と最も気を吐いた選手がコナー・ギャラガーであった事実が、「ひょっとしたらひょっとするかもしれない」との感覚を強めた。
ギャラガーという「かけがえのない存在」
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。