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不可解な主力放出も、生え抜きの若手が躍動。今、バレンシアで起きていること

2024.02.10

 問題山積ながら順位は7位、欧州カップ戦圏内の6位レアル・ソシエダと同勝ち点で並んでいる。バレンシアの躍進には驚かざるを得ない。戦力は細る一方だ。

栄光のメンバーが次々に退団

 冬の移籍市場では、キャプテンでレギュラーCBのガブリエウ・パウリスタが、フリートランスファーでアトレティコ・マドリーに移籍した。この時期に主力をタダで放出した理由は、45分間以上、20試合以上に出場すれば自動的に更新されるという契約になっており、更新によって生じてしまう年俸負担を避けるため。つまりは節約のためだ。

 パウリスタはバレンシアにとって現状、最後のタイトルである2019年のコパ・デルレイ優勝メンバーの数少ない生き残りだった。ダニエル・バス、エセキエル・ガライ、ダニエル・パレホ、フランシス・コクラン、ジョフレイ・コンドグビア、ケビン・ガメイロ、フェラン・トーレス、イ・ガンイン、カルロス・ソレール、ゴンサロ・ゲデス、ロドリゴ・モレーノ……。そうそうたる顔ぶれがわずか5年の間にクラブを後にせざるを得なかった。パウリスタは当時の優勝メンバーで19人目の放出要員である。

 残ったのは20歳前半のBチーム出身者を中心とする平均年齢24歳のラ・リーガ最年少チーム。スペイン代表のホセ・ガヤがキャプテンとして若い選手をまとめている。監督はダビド・アルベルダ、サンティアゴ・カニサレス、ロベルト・アジャラらとともにリーグ優勝に輝く全盛期を支えたルベン・バラハ。昨季、生え抜きの忠誠心に懸けて一部残留を達成した彼は、今季も若手を積極的に活用しているが、Bチームの所属が4部リーグであることを考えると、7位というのは「快挙」と呼ぶしかなく、最終的に欧州カップ戦出場権を獲得すれば「奇跡」と言っても過言ではない。ジローナ躍進の陰に隠れて目立たないが、それに匹敵するほどの偉業となるだろう。

飼い殺し状態の名門クラブ

 オーナーのピーター・リムと周囲との関係はずっと壊れっ放しだ。選手を放出せざるを得ないほど財政状態は悪化しているが、経営権を手放すつもりはないリムの下で、名門クラブは飼い殺しのような状態になっている。バレンシア市の関係者、ファン、メディア、現監督と選手たち、レジェンドたちのすべてを敵に回しており、「リム・ゴー・ホーム」というスローガンを耳にしない日はない。「リム・ゴー・ホーム」は商標登録され、Tシャツなどグッズも売られている。

 財政破綻の原因となった新スタジアムは、15年以上前から建設途中で放棄されたまま。完成させるには200億円近い追加融資が必要だとされるが、すでに500億円の負債を抱えるクラブにもオーナーにもバレンシア市にもそんな余裕はない。実はリムが去ったとしても、赤字だらけのクラブを買う新オーナー候補もいないという。

 まったく出口が見えない真っ暗闇の中、グラウンド上で躍動する若さだけが一筋の光となっている。


Photo: Getty Images

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木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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