2023年9月、横浜F・マリノスのアカデミーが10日間のイングランド遠征を行った。受け入れ先はシティ・フットボール・グループ(CFG)の旗艦クラブであるマンチェスター・シティ。世界最先端の施設でのトレーニングをベースに、シティアカデミー戦を含む3つのトレーニングマッチが行われた。
前編ではこの遠征の経緯、直接触れて感じた「世界最先端」の育成の今、選手や指導者が得た収穫について、横浜FM・坪倉進弥アカデミーダイレクターに聞いた。
異例の「合宿型」欧州遠征の狙い
――今回の横浜F・マリノスアカデミーのマンチェスター・シティ遠征はどのような経緯で実現したのでしょうか?
「前提として、コロナ禍が明けて海外遠征が本格的にスタートできる状態になりました。私が2023年2月に横浜FMに戻った段階で、あらためて海外に対してどう向き合っていくかを考えました。以前のようにユースの選手を連れて短期留学という方法も考えましたが、うちの強みは、やはりマンチェスター・シティとの提携があること。そこで新たな試みとして合宿型の海外遠征を行うことになりました。シティ・フットボール・グループ(CFG)の力を借りてシティのアカデミーのオペレーション責任者と繋がることができて、地道に調整を続けた結果が実現しました」
――今回の試みは横浜FM側からの発案ということだったわけですね?
「そうです。最初は現場レベルの人にたどり着くまでの壁がなかなか高かったです」
――手探りでのコミュニケーションだったと。
「はい。もともとCFGの日本側の窓口になっている現地スタッフとは知り合いでしたが、こちらの温度感がなかなかあちらに伝わりませんでした。動きが進まない中で、CFG-Japanの力を借りて、粘り強く、 そこを突破することができました。ただ、アカデミー運営の責任者に繋がった後の動きは早かったです」
――ユースの遠征と言えば大会参加が一般的ですが、今回の遠征のようにシティの練習場に拠点を置いた合宿みたいな形は珍しいですよね?
「まさにそうだと思います。ユース年代の欧州遠征と言えば、何らかの大会に出て1試合から2試合のトレーニングマッチを行うのが定番です。なので、シティ側も最初は『一緒に大会に出てみるか?』といった提案をしてくれました。ただ、シティと同じ大会に出たとしても彼らと対戦できる保証はありませんし、彼らと接する時間がどれほど取ってもらえるかもわかりません。そこを模索していた時にシティ側から、2月にMLSのニューヨーク・シティが、シティのアカデミーに拠点を置いてトレーニングとトレーニングマッチを行いながら、スタッフがそれぞれの部門の責任者とのミーティングに参加したという、約10日間の取り組みのスケジュールを見せてもらいました。我々がやりたいのは、『まさしくこれだ』と。実際に3試合のトレーニングマッチを組みながらトレーニングもできて、なおかつスタッフはシティのスタッフとたくさんのミーティングをすることができました」
――シティの内部を見られたり、スタッフと意見交換できるのはかなり貴重な機会ですよね。具体的な日程と参加者はどんな感じだったのでしょう?
「9月中旬に10泊12日で実施しました。選手は18名、ユースの1年生が14名、ジュニアユースの選手で来季の昇格が決まっている選手が4名でした」
――どのような意図で、その年代の選手たちを連れて行ったのでしょうか?
「向こうで得たことをこちらで表現する、もしくは継続的にその意識を持ちながら成長する時間を持てるカテゴリーがいいと考えたからです。チームのスケジュール的にも、リーグ戦の中断期間と重なる時期で行きやすかったんです」
――遠征のスケジュールを具体的に教えてください。
「スケジュール表があるので参照ください。
濃い緑のところが80分のトレーニングマッチで、シティ、シェフィールド・ウェンズデイと試合をした後、ロンドンに移動してクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)と90分ゲームを行いました。この時期に欧州の大会に参加すると、ゲーム時間は20分や25分ハーフ、30分の1本など多くのチームと対戦できるメリットはあるものの、1本のゲーム時間は短くなる傾向があります。こういった合宿形式で行った方が良い相手と長い時間きっちり試合ができるというメリットがありました。スケジュール決定の流れとしては、まずシティ戦の日程を決めて、あちらのオペレーション責任者がその他のクラブの予定をリサーチしてくれて、『ぜひやりたい』と言ってくれた2クラブとの対戦が実現しました」
――試合だけでなく、トレーニングも行われたんですよね? そこにはシティのスタッフもサポートしてくれたりも?
「シティのGKコーチがGKトレーニングのセッションを2回担当してくれました。それ以外のトレーニングは横浜FMのスタッフが実施しました。時差ボケ改善から始まって、実際に向こうの施設の一面を貸し切りで使わせてもらいました。ロッカー、用具、そしてクラブハウス内での食事もいただき、試合映像も2パターンいただきました」
――シティの施設はいかがでしたか?……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。