2023年10月、徳島ヴォルティスがサッカー向け認知診断テスト「NeurOlympics(ニューロオリンピックス)」の導入を発表した。主にユース世代を対象に、「認知→判断→実行のプロセスに関連する脳機能を測定すること」を目的にオランダの「BrainsFirst BV」が開発した評価プラットフォームだ。サービス導入の狙いについて、岡田明彦強化本部長に話を聞いた。
オランダ発祥の認知テストとは?
藤原志龍(2019~20年ポルティモネンセ)や渡井理己(2022年~ボアビスタFC)、鈴木輪太朗イブラヒーム(2023年~ジローナB)の欧州クラブへの期限付き移籍、レアル・ソシエダとの育成業務提携など、グローバルフットボールを意識した独自の取り組みを進めている徳島ヴォルティス。サッカー向け認知診断テスト「NeurOlympics(ニューロオリンピックス)」の導入は、アジア初となる契約だという。
「オランダの『BrainsFirst BV』社の商品で、彼らが開発したサッカー向け認知診断テスト『ニューロオリンピックス』というサービスになります。主にタレントの早期発掘を目的としており、ゲーム形式で認知→判断→実行のプロセスに関する脳機能を測定します。育成年代ではフィジカルデータをかなり細かく取るようになりましたが、それでも誰がその後伸びるかはわからない部分があります。実は目には見えない部分、認知の部分にそのヒントが隠されているのではないかというのが興味を持った理由です」
そう語るのは、このプロジェクトの責任者である岡田明彦強化本部長。オランダのアンダー世代ですでに実用されており、U-15、U-17といった各年代の代表選手の認知データを記録しているという。昨シーズンのUEFAユースリーグ王者に輝いたAZや提携クラブであるソシエダも『ニューロオリンピックス』で認知のデータを取っており、「育成の答えが出るのは10年単位なので、とにかくやってみようという段階」(岡田強化本部長)ながらも、これから注目されていく分野であることは間違いない。
「もちろん認知のデータがすべてではないですが、トップレベルのスピードがあっても第一線まで行けない選手もいます。選手の未来を完璧に予想することはできないですが、シャビや久保建英のように今のサッカーはよりインテリジェンスが求められるようになってきています。実際、開発元にはこの数値が高ければ将来大成する可能性が高いという基準があるらしいです。徳島のアカデミーにもその数値が高い選手がいて、その項目ならヨーロッパレベルでも原石らしくて、ここから我々がどう磨き上げるか。もしかしたら将来トップチームの勝利に貢献してくれる選手になるかもしれないし、クラブの大きな資産になってくれるかもしれません」
認知機能は成長するのか?
筆者も『ニューロオリンピックス』のデモ版を体験してみたが、記憶テストゲームやシューティングゲームのような形式で、記憶力や反射神経、反応速度などが問われていると感じた。
徳島ヴォルティスではU-13選手やトップチームの一部の若手選手が実施済みで、今後も各年代のアカデミー選手やトップチームの選手たちに対象を拡大させていく予定だという。
テストを受けたU-13の選手たちは「認知ということを考えるきっかけになりました」と、意識していなかった分野に触れて刺激を受ける選手が多かったようだ。加えてU-13のあるGKは「自分はGKをやっていて、ビルドアップが大切になると感じています。その時には、味方がどこにいるかなどを認知することも必要じゃないかなと思いました」と認知をプレーにどう生かすかをイメージできたようだ。「今後、実施していく中で自分のテストの得点がどのように変化していくのかが、楽しみです」(U-13のフィールド選手)というように、純粋にゲーム感覚で楽しめるのも若い世代にとってはメリットかもしれない。
1つ気になったのは、この認知テストで測れるのは先天的な才能で、果たしてトレーニングで高められるのかどうかという点だ。……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。