今夏に主将ジョーダン・ヘンダーソンら中盤の選手が相次いで退団する非常事態に陥ったものの、その穴を新戦力が見事に埋めつつあるリバプール。中でもかつて同じ8番を背負った往年の名手、スティーブン・ジェラードを彷彿とさせるプレーで瞬く間にフィットしているのが、RBライプツィヒから推定6000万ポンドで引き抜いたドミニク・ソボスライだ。23歳のハンガリー代表MFが25cm台と言われる小さな足から大きな力を生んで強烈なインステップキックを繰り出せる体の仕組みを、「J.LEAGUE TECHNICAL REPORT 2023 SUMMER」に分析記事を寄稿した東大卒キックコーチの田所剛之氏(@_take_tomar)が力学的視点から解説する。
リバプール加入後、印象的な活躍を見せているドミニク・ソボスライ。彼の最大の長所は強烈なキック力にあり、カラバオ杯3回戦レスター戦で決めたミドルシュートはその能力を知らしめたシーンと言える。
本稿では過去にfootballistaの「バイエルンとの再開初戦で要注目!『ローゼの愛弟子』で『レッドブルの申し子』ドミニク・ソボスライの2つの強み」という記事内で、「186cmと高身長ながらも、足のサイズが25~25.5cmと小さく、これにより『ボールが特別な軌道を描くことが多くなる』」と紹介されている彼のキックの特徴を解説するとともに、足のサイズがどのようにキックに影響するのかを考察する。
ロスのないインパクトを実現する2つの条件
ソボスライのキックの特徴は足部中央、いわゆるインステップで力を逃すことなくインパクトしていることにある。インステップでのストレート系のキックは基礎的なキックであると一般に認識されがちであるが、実はこの後に説明する蹴り足からボールへの力の伝達を最大化する条件をすべて満たしたキックの難易度は高い。
ロスのないインパクトを考える上で重要になるのは蹴り足がボールから受ける衝撃をどう扱うかである。キックの球速を最大化するためには蹴り足からボールに加える力積(力×作用した時間)を最大化することが必要だが、力学の基本法則である作用・反作用の法則によりボールに対して大きな力を加えようとすればするほど、反作用として蹴り足がボールから受ける衝撃も大きくなる。この衝撃を受け止められず蹴り足が弾かれてしまうような状態になるとボールに加えられる力積が小さくなってしまうので、球速を高める上ではこの衝撃をうまく受け止めることが鍵になる。その方法とは、インパクト位置の最適化と足首の固定の2つである。
まず前者についての結論として最適なインパクト位置とは足部重心である。先行研究により足部重心とはつま先から踵に向かって足長の59.5%の位置にあると示されている(阿江・湯海・横井, 1992)。イメージとしては、スパイクの靴紐の結び目より少しつま先よりの位置である。
その理由は、インパクト時に足部がボールから受ける反作用の力によって足部重心が減速するような並進運動(インパクト後のスイングスピードの低下)と蹴り出し方向に対して後方へ動くような回転運動が引き起こされるが、足部重心にインパクトした場合には後者の回転運動が生じずボールに与える力積を大きくできるからである。細かい計算過程は省略するが、図1のようにボールを質量mの質点、足部を質量M、重心周りの慣性モーメントIの剛体棒とモデル化して二物体の衝突(ボールと足部)を考えると、衝突後の球速は図1中のVbの通りとなる。
この式の意味するところは、分母に重心位置とインパクト位置との距離を表す、aの二乗項が入っていることからインパクト位置が重心位置からずれると、球速は大幅に落ちてしまうということである。実際に反発係数eや質量M,m、慣性モーメントIなどに現実的な値を代入してグラフにすると以下の図2の通りで、インパクト位置のずれが球速へ大きな影響を与える様子が見て取れる。要するにボールを蹴った際にうまく力が伝わらないのであれば、それはインパクト位置がずれているということになる。……
Profile
田所剛之
2023年東京大学卒業。スポーツバイオメカニクス研究室にてインサイドキックを研究した。在学中にキック専門トレーニングKicking labを創業。小学生からJリーガーまで幅広い層を指導し、2023年4月には『東大卒キックコーチが教える本当に正しいキックの蹴り方』を出版した。