『モダンサッカー3.0』書評#5
好評発売中の『モダンサッカー3.0 「ポジショナルプレー」から「ファンクショナルプレー」へ』は、イタリアでカルト的な人気を誇る若手指導者アレッサンドロ・フォルミサーノの革新的なメソッドがまとめられた一冊だ。書評企画の第五弾は、ゲームの企画制作などを本業とする傍らで、サッカー分析家としても活動を続ける五百蔵容氏。サッカーという“ゲーム”の構造からフォルミサーノの提言の本質を読み解いてもらった。
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本書『モダンサッカー3.0』でアレッサンドロ・フォルミサーノが展開している視点・議論は、決して革命的なものではないのではないか?
読者の中には、そう感じる方もおられるかもしれません。革新というよりも、むしろうなづけるところの多いものだと。グアルディオラ以降の現代サッカーの進展を率直に受け止めてきた現場の方々、観戦者にとっては、現状認識と展望の総括であり、総括に基づく実践の試みであると、共感できるところ多い書ではないでしょうか。
フォルミサーノは、モダンサッカーの進展を巡って蓄積されてきた知見・経験——先行研究とその達成——を踏まえた上で「今、実際にピッチで広汎に起きていること」を的確にとらえ、そのありさまが求めるオーダーへの対応を明快に言語化・メソッド化しています。
筆者の関心から見ると、「ポスト・ポジショナルプレーの世界」で探求されてきた“ゲーム”としてのサッカー観、サッカーのゲームメカニクスの特性についても、フォルミサーノが十分に注意を払って理論とメソッドに繰り込んでいる点が印象的でした。
質の高い“ゲーム“に不可欠な「ノイズ」
「マンマーキングもゾーンマーキング(ゾーナルマーキング)も、どちらも抽象、解釈でしかない」と言ったのは、戦術ブロガーからプロ指導者に転身したレネ・マリッチでした。「守備の仕方」「マークの仕方」はサッカーのゲームメカニクスに具象として・ルールとして書き込まれているわけではなく、ゲーム構造が提供する状況への適応方法としてアドホックに創案されているに過ぎません。
ボール保持・非保持・トランジションあらゆる局面で特定の「方法」に依存するのではなく、ゲームが提供する流動性、変動性に柔軟に適応するダイナミクスこそ、プレーヤーが、チームが習熟すべきものである。
――さしあたりこのように描写しうるゲーム観を共有しつつ、フォルミサーノはいかなるフォルム、経路でそのダイナミクスに接近しているのでしょうか? 本書ではチーム・プレーヤーの個性・振る舞いが組織としてのダイナミクスを決める、ゆえにそれらを十全に引き出すために、チーム・プレーヤーにプレー選択の自由を与えた上で環境制約型のトレーニングを実施する――としています。
フォルミサーノの提言は「私たち(指導者、プレーヤー)が“ゲーム”に何をなしうるか」を問うているとも言えますし、彼が本書で記している理論とメソッドは「この“ゲーム”は私たちに何を求めているか」が極めて鋭敏に意識され、思考・メソッドの前提に組み込まれています。……
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Profile
五百蔵 容
株式会社「セガ」にてゲームプランナー、シナリオライター、ディレクターを経て独立。現在、企画・シナリオ会社(有)スタジオモナド代表取締役社長。ゲームシステム・ストーリーの構造分析の経験から様々な対象を考察、分析、WEB媒体を中心に寄稿している。『砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?』を星海社新書より上梓。